Essai 2011年1月
215.元旦...と言う名の日常。
(2011年1月1日更新)
昨日更新した時点で今日はきっとこのタイトルで書くだろうと言う予感はあった(苦笑)。しかし考えてみるとちっとも日常とは言えない。お客様も来ないのに連日仕込みだけしているとは。大きな宴会に備えて皆でと言うなら話は別だが、1人で普通にブランチのミザーンプラスをしているだけとなれば尚更だ。しかし十分に時間があるようでも細かいアイテムも多いブランチの準備は結構時間がかかる。以前多い時は5〜6人でやってた(それもどうかと思うが)仕事なのだから。とは言え全部自分でやった方がしっかりディテールを把握しておけるから本番で楽だし、自信を持って出せる。本来1人でやる方が得意なのでそれはそれで良いのだが、今日も終わり頃下りていくと誰もいなかった。もっとも今日は久しぶりにバンケでもカフェテリアでもコミ(調理補助)をしているヴェズナが来ていたので彼女だけは何時も通り帰りに挨拶してくれたから昨日よりはましか。
元日はしかし我々日本人にとっては特別な日。こういう始まりの1年はどうなる事やら。とりあえず元日更新だけでもしておけて良しとしよう。
216. レストランの在り方。
(2011年1月3日更新)
昨日のブランチはアランは寝坊したとかで1時間遅れてきた為、また誰も来ないのかと思ったが、無事現れた(苦笑)。1時間遅れてきたのはしかし結果としてはかえって良かった。何故なら昨日から暫くの間ブランチは1時間遅れて開店する事になったからだ。来週には博物館自体が改装でちょっと閉めるし、その後これまた暫くレストランの営業は月、火、土と週3回も閉店する事になっている。私としては当然バンケに半分戻る事になろうが、そのバンケもこの年末年始はまったく入っておらず、相変わらずバンケ専従のメンバーは誰も見かけない。休暇を申請するなら今だと思うのだが、申請する相手のマイケルがクリスマス前から休暇中で連絡も全く取れない。今週前半には帰ってくる予定だが。
それにしてもこのレストランの営業方針はちょっとふざけている。こんな事を繰り返していたらお客様が帰ってこない。昔私が銀座で働いていた店の上司は「2日連続して休んだらこの辺のお客は戻ってこないぞ」とよく言っていたが、この状況を聞いたら呆れてものも言えない事だろう。残念ながら故人なので聞くわけにはいかないが。私が仕込みだけしていた週末にも2回お客様がみえて、真っ暗で私1人しかいないのをみて、「え?休み」とUターンしてしまった。勿論お客様は一々厨房まで覗くわけではないのに2回も私が気付いたと言う事は、もっと沢山の方が引き返された事は想像に難くない。
コンパスグループとしては、夏には一階にビストロを増築し、その後レストランは閉める計画を立てていると聞く。ブランチではお客様の声を直接聞く事が出来るので、色々話を聞くのだが、「ブランチをやっていると知っていれば前から来たのに」とか、それ以前に「レストランがあるとは知らなかった」と言う声も多い。もっと知られれば他所と比べてお得感のあるブランチなどはもっと毎週満席でもいい筈だ。100席が埋れば十分商売として成立する。普段でももっとお客様を呼ぶ手段は沢山ある筈だが、コンパスグループにその気がない様に思える。
レストランは1人経営者側だけのものではない。定連のお客様などと共に育っていく。このブランチの定連のお客様の中にほぼ毎日来る様なご夫婦がおられるが、なんと20年も通い続けていると言う。そういう事をまったく省みずにやっていけばレストランの代わりにビストロなどオープンしてもまるで効果は期待できない。
ブランチが終わってから、久しぶりにフジェールに行った。以前から約束していたが、やっと予定が合った為恭子さんと一緒に食事に行ったのだが、店(自家製食品などを販売する)は半年くらい前にちょっと寄ったもののレストランとなると2年ぶりくらいじゃないだろうか。前もってチャーリーとジェニファーには知らせておいたが、どうしても外せない用があるらしく、しきりに残念がっていた。例によってこのクリスマスも私が不在の間にトルティア(ケベックのパイ料理)を3種類くらいドアの前に置いていってくれたので、そのお礼も直接言いたかったからこちらも非常に残念だ。
しかし、フジェールは安定している。店の隣に更に建物を増築中で、そこでもっと多くの食品を生産し、かなり遠方まで販売網を広げる計画の様だ。フジェールの名が既にブランド化している証明だ。
何より驚いたのは2年あまり行かなくてもメンバーがまるで変わっていない事だ。バスボーイで入店して、問題を起こして一度は首になったマリオ・ガスコンがルイ・パリジェンヌに次ぐ第2メートル・ドテルとなり、総支配人はカトリーヌが辞めて何とル・ムーラン・ウエイクフィールドで人事部長をしていたパメーラ・ベツィオーム(2007年2月の「新体制での出発」で書いた)が後任に収まったと言う噂は聞いていたが、そのマリオが出迎えてくれ、他のサーヴィス陣もベノワーやリディアといった懐かしい顔ばかり。皆が家族の様に迎えてくれるのは嬉しい。カフェ・ド・ミュゼのふざけた経営方針の後では尚更負けた感が否めない(苦笑)。調理場もあのマリオ・ボワイエ(2007年9月「パティシェ時代の思い出」参照)が作っているので安定している。彼が作っているとわかったので安心して本日のスープであるオマール ビスクを頼んだが、流石に旨かった。メインのリドヴォーは若干量が多すぎたが(笑)。
217. 取りあえず更新。
(1月9日更新)
今週もブランチは暇だった。明日から1週間改装、点検の為博物館を閉めるから使わなかった予備の料理をカフェテリア等に転用出来ないので大分無駄が出てしまったのは残念だ。勿論これを予期してなるべく少なめに仕込んだつもりではある。しかし暇と言っても14名のグループを筆頭に6〜7件の予約は入っていたのだから、予約なしのお客様が大勢来れば大いに忙しくなる可能性もあった訳で、この辺がビュッフェ形式の難しさだ。
水曜日にようやくマイケルが帰ってきて、急いで休暇の申請をし、1週間の休業に加え、1週間休暇を足して明日から日本に帰省する。水曜に決まって、金曜、つまり一昨日に航空券の手配を済ませ、明日出発と言う慌しさだ。取りあえず、今日は短くとも更新しておかないと、向こう2週間は更新する事はなさそうなので。
218. 一期一会。
(1月31日更新)
予定通り25日の夜にこちらに戻り、翌26日の朝から仕事に復帰した。調理場に立つと時差の影響も感じないから不思議
だが、休みの今日になるとほぼ1週間近く経つのに今頃時差ボケが出てくる。人間の身体の妙である。
平日は週末の金曜はともかく、相変わらず暇だ。もっとも来る週はそろそろ宴会部門が始動し始める様で、少なくとも週2回以上終日勤務になりそうだ。大体去年も2月からは結構忙しくなり始めた事もあって一番暇な1月に休みを取ったのだから、まあその辺は予定通りか。宴会は今はリテッシュが仕切っているのだから、忙しくなっても私の負担は軽減されるだろうが、またレストランはブランチのビュッフェを含め、私1人で全てやりつつ宴会も・・・となるだろうから楽とは言えない。しかし暇な月が2ヶ月も3ヶ月も続いては困るし、このご時勢に大規模な宴会場が成り立っているだけで有難い。一方でオタワの中心リドーセンターの所に新たな宴会場も最近誕生した様で楽観出来ない。ジョルジュが博物館グループの総料理長を引き受けた頃に周りの宴会場が閉まった事でこの職場は忙しくなってきた訳だが、その逆の影響があるのは当然だろう。因果応報と言う訳だ。
因果応報の言葉が出た序で恐縮だが、日本の四文字熟語には日本人の哲学が要約されている事が多いと思う。
ケベック州の州都であるケベック市はいかにも食の都のイメージがある。しかし、ケベック州の某有名レストランで若い頃スーシェフをしていたシェフ仲間から聞いたが、彼の居た店も含め、意外なほどいい加減な店が多かったと言う。その理由はそれ等のレストランが観光客をターゲットにしているからだそうだ。つまりリピーターを考えず、どうせ一生のうち一回しか来ないお客が多いのだからインスタントに毛の生えた様な物を高い料金で出す事すらあるとか。私の友人は当時子供が生まれたばかりで、給料は高かったから辞めるに辞められなかったが、2度とやりたくない様な仕事だったと言うから相当なものだ。私に限らず日本人ならこの話を聞いて「一期一会」と言う熟語が浮かんでくるのではないだろうか。文化の違いと言えばそれまでだが、一生のうち一回しか来ない観光のお客様なら尚更その稀有な縁を大切にしたいと言う気持ちは芽生えないものか。その料理の印象から一度しか訪れる予定の無かった街に再び足を向ける事すらあるのだ。ミシュランの三ツ星レストランの様に、その店で食事する為だけに辺鄙な場所に行く価値がある事も。
休暇から戻ってうちのレストランのウエイターに「東京に良いレストランて結構あるんですか?」と聞かれ、「ミシュランの三ツ星レストランの数はパリを抜いて世界一だよ」と答えて、驚かれた。勿論ミシュランだって会社だから、営業的に日本に点が甘いと言う事だってあるのかもしれない。しかし、わざわざ外国の評価を待つまでも無く、東京、日本のレストランのレベルは世界でも群を抜いていると自負している。その根底にはやはり一期一会の様な日本人の哲学があるからではないだろうか。