エッセイ2010年11月


207.時流に乗れなくても・・・

(11月18日更新)

 あっという間に17日になってしまった。今月初めての更新である。仕事は会社としてはそう暇ではないのだが、宴会があってもリテッシュがいるから私は翌日から数日先の準備を別チームでやっている事が多く楽をしている。
 このパターンだと、宴会の仕込み、もしくはその後の余剰のアイテムをブランチのメニューに組み入れられる利点もある。実際最近ブランチの準備に1日しか時間を取れない事が多いのでこれは助かる。
 ま、仕事の話はこの辺にしておこう。そもそも、ワンパターンにそんな事ばかり書いていて意味がないから更新を差し控えていたのだから。

 今日は休みだったので、朝一で車のタイヤを冬用のものに交換した。せっかく早起きしたので、朝食を他所に食べに行き、帰りに本日解禁のボジョレーヌーボーを買って帰ってきた。
 これで何時雪が積もっても大丈夫だと思ったら「それじゃ遠慮なく・・」みたいなタイミングで夜になって軽く積もり始めた。初雪は先月にも降ったが、今のところ積もる程には降っていない。今夜も大した事はなさそうだ。
 ボジョレーヌーボーは今年は何とモメサン1銘柄しか売っていなかった。半官半民の酒屋が一手に酒類を扱ってるとこんな弊害もある。せめて、去年同様ジョルジュ・デュブッフは仕入れて欲しかった。早速飲んでみたが、去年の味にちょっと近いものの、去年の方が更に美味しかったというか、もう少しガメイ種らしい果実味がはっきりしていた感じられた・・・個人的な感想、しかも第一印象としてだが。それにしても去年の例えばジョルジュ・デュブッフはヌーボーで無くなった今飲んでもやはり美味しい。これは熟成しても更に味わい深くなりそうな気がする。

 このサイトも結構長くやっているので、時々色々な人からメールを頂いたりするが、「ブログを拝見して・・・」と言う出だしが意外に多い。別にそれはそれで構わない。事実最近ではもっぱら、更新しているのはこのエッセイと写真くらいなのだから、寧ろブログツールを使ったり、それよりも専用のサービスサイトに加盟したりしてブログ化してしまった方が簡単に更新出来る筈だ。何故未だに普通のウエブ サイトにしているのか・・・考えてみると普段の料理に対する考えと似た所があるかもしれない。
 世の中どんどん便利になっていっているし、新しいものが日々誕生している。料理の世界もそれは同じ。私も新しい手法とか大いに興味はあるし、最新調理機器の便利さには驚嘆する。しかしどうしても完全に時流には乗り切れない。新しい機械などで今まで出来なかった事が出来たり、時間を驚くほど短縮できたりと言う事だと是非取り入れたくなる。しかし、時間、温度などをプログラムすると勝手に料理してくれる機械までは今のところ信頼しきれない。出来た料理を見れば、何故完成度が低いか私程度の料理人でも容易に分る。ジョルジュの様な料理人達が開発に携わって、これから改良が加えられて行くだろうが、今は未だ発展途上だなと感じる。どの段階でどう熱を加えていくのかは、材料の状態によって変わってくるのだから。
 始めに機械ありきで、この世界に入ってくる料理人は、その辺りを理解しないで、感性が鈍っている気がしてならない。日本の調理場は今も基本からみっちりやっている所が殆どで、そんな心配はないだろうと思う。しかし、少なくともこの国ではそんな状況になりつつある。
 別にその事とウエブサイトを意識的に重ね合わせている訳ではない。私が初めて英語のサイトを作ったのは前世紀(笑)だから、その頃にはブログはあったかもしれないが、少なくとも一般的ではなかった。だから否応なしに普通のサイトを作ったのだが、使ったソフトも古かったから今以上に自分の思ったとおりの表示にならなくて苦労した。そんな苦労はしなくて済むものならしない方が良いに決まっている。
 ただ、作りたい料理があるから手法を学ぶように、伝えたいものがあったから、慣れないものに手を出したと言う共通点は或いはあっただろうか。要するに何となく軽やかに時流に乗れない・・・こういうのは性格なのだろう。
 料理人の性格が料理に出る。だから未だ出来すぎの機械では表現しきれないのかもしれない。
 

208.しかし便利なのは有難い。

(11月23日更新)

 昨日ドイツ時代の日本人の友人からメールを貰った。当時も今も寿司職人で今は秋田市で大将をやっているらしい。前に学生時代の友人からもネットで私の名前を見つけて連絡が来た話は書いたが、ここ数年で何度かこんな事があった。日本語のホームページを開設してから4年以上も経つと、流石に色々なキーワードで検索にひっかかるらしい。ケベック州日系料理人協会のページに先にたどり着いた人もいる様だ。
 インターネットの話は前回に引き続きと言う感じだが、まあ良いだろう。日本語のページは日本語を解する人にしか当然読めない訳だが、逆に言えば日本語さえ読めて、インターネット接続環境さえあれば、世界中何処でも読める。いや、文章のページだけでなく、インターネットラジオで日本語放送も聞けるし、ちょっと進んだパソコン、高速接続環境があれば、日本の映像も簡単に見られる筈だ。勿論反対に日本からもこうしてカナダの森の中の様な場所で更新している私のサイトが見れる・・ポケットに入った携帯電話でも見れると言うのは、あらためて考えるとやはり凄い事だと思う。
 私が初めてこのカナダに来たのは1986年だ。当時仕事と時間が重ならない時には週に1度僅か1時間だけ放送していたNHKの短波放送をラジオで聞こうと必死にダイヤルを合わせたものだが、雑音で殆ど聞き取れなかったものだ。もっとも今ほど便利な世の中なら、私など日本語環境にどっぷり浸かってしまっていただろう。特別な意思があった訳ではないが、当時トロントでは日本人の知人も無く、新聞、テレビなどのメディアも英語(言うまでもなくトロントは英語圏なので)に頼らざるを得なかった。
 日本語の文章を読むのは、たまに日本食料品店で買う日加タイムスくらいだった。後に日加タイムス編集長さん自らの取材を受け、カラー見開きページの記事に自分が載せてもらう事になろうとは夢にも思わなかったが、日本に関する記事はリアルタイムとは程遠いこの新聞が頼りだった。今でもそうだが、日本で思うほど、日本のニュースはこちらでは流れない。総理大臣だって、こんなに頻繁に変わっているのでは、一々検証されないのも無理は無いかもしれない。確実に取り上げられるのは大地震などの天変地異くらいだろう。1988年に日本に帰国した際は国鉄がJRに変わっている事も把握していない正しく浦島太郎状態で恥をかく事も多かった。
 今では埼玉県で引ったくりの被害が出たとか、四国でサルに引っ掻かれたとか、当事者にとっては一大事ながら、海を越えて聞かされてもまるでピンと来ない情報まで自然に入ってくる。日本の家族、友人など、昔の感覚で「これは知らないでしょう」みたいに色々教えてくれようとするが、およそ日本中で話題になっていれば知ら無い事などまず無い。
 相変わらず日本人の友人が少なく、何ヶ月も日本語を話さない事が珍しくないのに、今はもう日本の地方都市周辺に住んでいる様な錯覚を覚える程だ。
 前回時流に乗れないとか散々書いたが、さりとて不便な昔に逆行したいとは、まさか思わない。レバノンの料理を作る羽目になった時など、インターネットで検索したルセット(レシピ)が頼りだったし、昨日などスープを作っていてバズーカ砲みたいな業務用ミキサーが壊れていて、小型のロボクープ(フード プロセッサー)に少しずつ入れて作るのが凄く面倒に感じた。量が50リットルだったから未だ良かったが、1000人前のスープをこの要領で作るとすれば気が遠くなる様な作業だ。因みに1000人前と言うと170リットルと言うところか。しかし私も昔(それこそ1986年当時など)はこのロボクープで作っていた。そもそも我々より前の時代ならロボクープすら無かった訳で、つぶしたり、裏ごししながら作っていたのだ。その時代の人がこの小型のロボクープ誕生を見た時には「何て便利な機械が誕生したんだ」と感動した筈だ。その同じ機械を使うのに、「こんなのでやるのは面倒だな」と感じるのだから人間便利さには簡単に順応するものだと思う。
 しかし、せめてキャンプ場の道具程度で料理を作る感覚は失いたくないものだ。
 

209.レストラン「カフェ・ド・ミュゼ」の話

(11月30日更新)

 明日から12月。どう転んでもデーブは帰って来ない様だし、12月から新メニューに変わる折り目でもあるのので暫く私がレストランの面倒を見る事になった。マイケルはくどくど「暫くで良いから・・」みたいに言っていたが、今は宴会はリテッシュがいれば十分な程度の忙しさだし、私としてはレストランの方が有難いくらいだ。
 実際博物館にカフェテリア以外にレストランを併設している(1階がカフェテリア、2階がレストラン)のは首都圏ではここだけだろう。普通はカフェテリア・・・つまり食堂があれば事足りる。しかもここのカフェテリアは広く、その場でサンドイッチを作るデリカテッセン、ピザの釜を背にピザと日替わりメニューを供するトラットリア、ハンバーガーやケベック名物プティーンを出すグリルの3コーナーに加えて、持ち帰りのオン・ザ・ゴーのコーナーまであってシーズン中は引っ切り無しに到着する団体バスで1日千人を超すお客様で賑わう事も珍しくない。出しているものにしてもマニーやイブが監督しているのだからそういい加減なものではない。本来ならレストランまではいらないのかも知れない。わざわざレストランまで作ったのはカナダ最大級の博物館と言う事もあるが、おそらく首都圏の国立博物館でここ文明博物館だけがケベック州側のガティノーにある事が影響している気がする。
 何しろフランスでは博物館、美術館内のレストランでランチを取るのは結構人気がある。フランス語文化圏であれば、やはりその影響を受けるのも当然かもしれない。
 しかし双子都市は日本も含め世界の随所にあるが、他州に跨り、しかも一方はフランス語圏、一方は英語圏と言うのは凡そ珍しいのではないだろうか。もっとも、オタワは英語圏のオンタリオ州内にあるとは言え、カナダ連邦の首都である為、建前上は英仏2ヶ国語が公用語になっている。
 フランスの博物館、美術館内のレストランの多くがそうである様に文明博物館のカフェ・ド・ミュゼはその眺望が自慢だ。この以前撮った写真天気が悪かったし、角度も今ひとつだったが、本来窓際に立てばこんな風景も見られる。
 オタワ周辺に住んでいるか、もしくは旅行で訪れる機会があるなら、ランチを取る場所としては意外な穴場かもしれない。特に日曜のブランチはお得だと思う。