エッセイ 2009年10月




144.戦争に行く?

(10月1日更新)

更新頻度を上げるにはやはり1日から始めるに越した事は無いので、短くとも今日から始めてみる事にした。昨日(9月最終日の更新)書いたように、今晩のパーティは一件のみで、十分な人数で前日に仕込みを行ったから、今日は準備には大して時間がかからなかった。しかし、再三書いているように、戦争博物館の調理場は設備がクラッシックで、普通のオーブン、普通のストーブで全てをまかなわなければならないから、300名とは言え、ブッフェで無い以上、人海戦術で1つ1つの皿を仕上げて一気に出す事になり、これは楽ではない。それ自体は先月の最初にも書いた通り私の得意分野だからそれはそれで良いが、そもそも2階の調理場から1階のル・ブレトン ギャラリーまでかなり遠いし、普段から無線で連絡を取り合うのだが(無線は文明博物館と戦争博物館の間でも十分電波が届く)、細かい打ち合わせが重要だ。何しろ何時調理を開始するのか、暖めるのか、タイミングが全てなのだから。
こんな状態だから、調理場と下の現場に分散して大掛かりなオペレーションになった。
おまけに未だストライキ中だから、例によって入り口で暫く停められたり、足りないものを取りに行った人間も中々戻れなかったりと言う余計な手間まであった。前回ストライキについてはコメントしないような事を書いたが、これだけは言いたい。博物館と言えど、お客様あっての存在。自分達の権利を守る為とは言え、ホスピタリティの精神を忘れ、お客様にも迷惑をかけ続けて、無事要求が通って戻ってきてもお客様の賛同を得る事は難しいのではないかと言う事だ。
政府の職員として親方日の丸ならぬ親方楓の葉?でやってきて客商売の怖さが分かっていないのではないかと言うのが私の本音での感想だ。もっとも、お客様に迷惑のかからないストライキと言うのも矛盾かもしれないし、難しいだろうと思わないでもない。
戦争博物館に行く時は何時も、一々“博物館”を付けないで、「戦争に行く」と言うのだが、何だかとんだブラックジョークだ。ル・ブレトン ギャラリーは写真を見ていただけば分かるように、戦争博物館の大広間だから、天井から戦闘機が吊るされていたり、戦車が並んでいたりして、ここだけは万人向けのパーティ会場とは

145.一世一代・・・しかしそのサポーターにとっては。

(10月5日更新)

今週は金曜日の大口予約はなかったが、正直それで助かった。土曜に2件の結婚式が例のグランドホールと、文明博物館のレストランであるカフェ・ド・ミュゼの2箇所で行なわれたので、その準備だけで、朝から晩までかかったからだ。特にグランドホールの300名ほどはイタリア系らしく、アンティパスト(イタリア料理の前菜)やパスタ(自家製のラビオリ)など、コースの数が多かった。皆フランス料理系なのだからイタリア料理など誰も専門がいない訳だが、元々フランス料理の原点だから、メインの料理などはフランス料理のものとそう変わらない。しかし、ラビオリはフランス料理のレストランでもよく使うが、300名分以上も作ったのは初めてだ。
デザートの他フルーツの盛り合わせも各テーブル(30テーブル)に1つずつとメインテーブルの10名は1人1つずつ用意する事になったが、各テーブルに1つずつと言ったって、各10名分の皿を30個作る訳だから、実際に並べてみれば分かるが大変な数だ。ただ小奇麗にスライスするだけだとしてもそう楽ではないだろう。しかし我々は毎日やっているような事でもお客様にとっては一世一代の結婚式でもある訳だから、それなりのプレゼンテーションを考えなければならない。結局5種類のデザインを各6個ずつこれは全部私が当日1人で盛り付けたが、先月盛り付け例で紹介したフルーツの皿を30個作る所を想像していただけばほぼ間違いない。
カフェ・ド・ミュゼの方はごく一般的なコースの結婚式だったが、人数は同じようなものだったし、全部文明博物館内だから、両方に関わらなければならないのも大変だった。もっとも本来はもう1つ結婚式が入っていたのが、ストライキの為キャンセルになった。ストライキで結婚式の予定まで変えなければならないのはお客様にとっては痛恨の思いではなかろうか。くどいようだが我々サポートする者にとっては毎日の様にやっている事でもお客様にとっては一生に一度かもしれないのだ。
実際ストライキが長期化してきた事で先の方の予約は大分キャンセルが出始めているし、何より新しい予約が入らず、危機的な状況の兆しがでている。このままでは10月は良いが、11月はどうなるものか。勿論明日にでも突然解決、ストライキ終了の様な可能性もある訳だし、幾らなんでもそう何時までも続けられるものではないと思うが。
昨日の日曜日はまた5階(我々の調理場のある階からエレベーターに乗ると、その階が1階で5階と言う事になるが、正面玄関からエレベーターに乗れば3階である)のカナダホールでパーティがあった。これはカナダ政府の公務員研修所みたいな所の主催だったが、50名と小さなパーティで、久しぶりに完全なブッフェ形式だった。つまりパーティが始まれば例のデクパージュ(肉の切り分け)があるだけで、今回の肉も2種類(ほろほろ鳥の詰め物と、豚)のみ、デーブと私で一箇所ずつ担当した。今回は楽器屋(の展示物)の中で準備し、瀬戸物屋(勿論展示物)の前にデクパージュのコーナーをセットした。客席はあらゆる場所に設置されている。写真を見ると多少臨場感を感じていただけるだろうか。実はお客様の到着が1時間近くも遅れた為に、呑気に写真など撮っていられたのだが(苦笑)。何だか時代遅れの町の路上で肉を切っている感じだった。コックコートにトック帽と言うまったく場違いな格好、黒服のサービス、白いテーブルクロス、バー、どうせなら、場所に合わせて、全員が昔の格好でサービスするくらいの演出があっても面白いが、これはこれでアンバランスで興味深い。


146.東西ストライキ事情

(10月7日更新)

タイトルからして、あまり内容を読みたくない題で恐縮だが、ストライキが終わらない為にこちらの予定がどんどん狂ってくるので、結局毎回この話題から離れられない。
本日ストライキ突入以来初めての話し合いが持たれた事が報じられ、金曜日にもまた交渉が行なわれるとか言う話だが、未だ解決に至ってはいない。
今晩は相当大きなパーティが入っていた。温製、及び冷製のアミューズから始まり、品数も多く、シーフードを色んな形で試したいと言った要望もあり、お客様の前で寿司まで握る手はずになっていた。
このパーティがキャンセルになった為、結局今日は出勤はしたものの、Uターンして帰る羽目になった。まあ、新たな話し合いの勢いに乗ったのか、今日は一段とデモの人数も多く、お客様でなくともしり込みしそうな雰囲気ではあった。
都会(それもオタワ側より高いのが普通なので)だけに仕事もなしに帰るとなっては、駐車場代だけでも馬鹿にならない。先月の前半にようやくスーシェフとしての契約条件の1つであった従業員駐車場のパスを得たが、2週間と経たない内にストに突入したので、殆ど役に立っていない。毎月更新なので、最早どっちにしろ期限切れだが、新たなパスを得て、そっちに駐車出来るのも何時の事か。
勿論、キャンセルになるのは、夜の宴会場ばかりではない。博物館は毎日開いているが、特別展示物は何度もキャンセルになったし、博物館内のみでなく、オタワで行なわれる幾つかの大イベントまでキャンセルになって、首都圏の経済にも影響がでてくる様な大事になっている。こうなるとニュースのコメント欄を見ても、ストライキに好意的なものは少ない。「今でも非常に恵まれた条件だし、同じ内容の仕事を人数的にも半分以下でやっている博物館も多い」といった意見が多く、中には「こんな博物館もう要らない」という過激な怒りの声まで出ている。
そもそも日本のストライキでのデモと言えば、シュプレヒコールを叫びながら、鉢巻など巻きながら抗議するというイメージだが、太鼓を叩いたり、それに合わせて踊っている人達までいるお祭り騒ぎ。道路に向かっては“Kulaxonner!”(クラクションを鳴らして)と言う看板を突き出し、何台かに1台クラクションを鳴らしてもらうと、賛同と取って「ウオー」と全員で歓声をあげる。他国からの旅行者の中には行き過ぎた民主主義の悪しき一面と捕らえる人もいるかもしれない。
そう、実際この季節は世界屈指の紅葉の景勝地を目指し、観光客が集まっている時期でもある。その多くは、ここを訪れるのは生涯ただ1回と言う人達。ただでさえ、天候の優れない今季(今日も時折激しい雨が降った)、単に運が悪いとしか感じられないのではないだろうか。思えば去年の紅葉の時期は彼のウエイクフィールドで頼みの紅葉鑑賞機関車が全シーズン中キャンセルになった。今年は復活して、ウエイクフィールド方面は喜んでいると思うが、私がこっちに来たら今度はこんな騒ぎに。ずっと居る我々の思いと、一期一会の旅人達との温度差を思わずにはいられない。
そう言えばウエイクフィールドの方はどうなっている事だろう。先週だったか、ジョルジュが「Naki、Le Tartuffe(数少なくなってきたHull Gatineauのフランス料理の名店)のスーシェフがウエイクフィールドのスーシェフに転身したらしいよ。しかし、シェフがロメインで大丈夫なのかな。どう見ても彼がシェフを務めるに十分な経験を持っているとは思えないが」ともらしていた。確かにロメインはジョルジュがシェフ、私がスーシェフと言う体制下で、ソーシェ(それもシェフ・ド・ソーシェと言う訳ですらなく)を勤めていた事もあったが、ジョルジュは彼を部門シェフにすら指名しなかった程で、才能はともかく、その経験には全く信をおいていなかったから当然そう思うのだろう。幸運を祈るのみだが。
人の心配より自分の心配をした方が良いかもしれない(苦笑)。もし今度の交渉も決裂して、ストライキが長期化すれば、こっちが失業しかねない。
そのまま帰るのも何なので、対岸の国会議事堂を撮影しておいた。天候のわりにはよく撮れたが、周辺は常緑樹も多く、紅葉の・・・とはいかないが、今回はこの写真で。


147.545人前一気に供する魔法。

(10月12日更新)

結局前回の更新の時の話し合いは、あの数時間後に決裂し、ストライキは相変わらず継続中である。とは言っても、土曜は文明博物館の大きなパーティと、戦争博物館の中規模パーティがあり、日曜に大きなパーティがあった為週末はかなり忙しかった。逆に言えば週末だけで、来る週もウイークデーには全く予約が入っていない有様である。
殊に日曜日のリシュリュー クラブの全国大会は545名の大パーティであった。リシュリュー クラブとは元々オタワに誕生した組織らしいが、英国系マジョリティに囲まれたフランス系の人達がフランス文化を守る為に作られたと聞く。実態は社会奉仕を目的としており、日本にもあるロータリー クラブやキワニス クラブと同じような性格の団体の様だ。大規模なパーティを開く事が可能で、フランス系カナダ人の有名シェフの1人であるジョルジュ・ローリエが総料理長を勤めるここに白羽の矢が当たったという事なのだろうから、これは流石にキャンセルにはならなかった。フランス系のラジオやテレビのニュースでは事前から盛んに報道されていた程だ。ジョルジュも流石に気合を入れて陣頭指揮に立ち、会場のグランド・ホールを挟んで全てを2箇所に分け、左右から一気に5コースの料理を出した。ブッフェや、カクテル パーティだとしても500名超は大変な数だが、5コースでこの人数となるとに全てのお客様をお待たせせずに配膳するのは壮大なオペレーションと言っても良いだろう。これだけの人数となると、当日申告(それも料理を配る段になって)でアレルギー等の配慮を求められたりする数も相等数予測されたから何種類もの特別ヴァージョンも用意しなければならなかった。或は例え途中で何十人分か丸ごとひっくり返す様なアクシデントがあったとしても対応可能にする為、数もかなり余分に準備もした。特別ヴァージョンをかなり用意したとは言え、基本的にメインは豚のローストだった。ローストとなると、流石に皿にのせたまま例の機械で暖めて出したのでは、出来立ての味を再現する事は出来ない。そこで野菜などの付け合せ(当然付け合せの仕込みだけでも大ごとだった)はその機械で盛り付けた状態のまま(それでも2つの機械で1度に暖められるのは200皿足らずだから、何度かに分けて、保温器に転送し)用意したが、肉は現場で切ってその皿に乗せ、ソースをかけ、ガルニチュール(飾り)を付けるといった手順で出した。今回私は肉を切る役を担当したので、ひたすら切りまくっただけだが。
500人前以上の料理を一気に出すにはどんな魔法が使われるのかと不思議に思うお客様も多いようだが、確かに簡単で無い事は確かだ。それでも機械の進歩に助けられ、昔ほど人が沢山いなくても可能になったとは言える。
ところで例の機械とはこの写真で、一気に皿を暖める時はこんな感じに棚に乗せたまま機械に入れる。これが2台並んでいて、各80数皿ずつ暖める事があ出来る。勿論巨大な電子レンジと言う訳では無いので、本来はロースト、グリルなど万能の調理機で、545人前の豚のロースト自体、この2台の機械で一気に焼き上げた訳だ。言うまでも無いと思うが、この2枚の写真はもっと暇な(笑)別の時に撮影したものだから、今回の話とは無関係だ。因みに最初の写真で機械に入っているのはパイで囲ったオニオンスープ。2枚目の写真で皿に乗っているのは水牛のステーキで、付け合せはグラタン ドフィノワーズ(ジャガイモのグラタン)とグリル野菜の盛り合わせ。水牛の下に薩摩芋のローストをひいてあって、これが上手に再加熱するコツの様だ。


148.このサイトも3年半経つと・・

(10月16日更新)

前回更新した時、2枚目の写真が半分送られた所でサーバーとの交信不能になってしまった。もしやと思って調べてみると、やはりWeb上の契約スペースである20メガバイトを越えてしまっていた。この所写真を多用していたので、そろそろ危ないかなとは思っていたのだが。そういう訳で急遽50メガバイトを追加してもらったので今回も写真は大丈夫だろう(笑)。
たまたま更新直後に見て頂いた方がいらっしゃったら、写真が半分しか見られなくて失礼してしまったかもしれない。
何時の間にか日本語サイトを立ち上げてからでも3年半経ったので容量が増えるのも当然か。実際こんなサイトでもスポンサーに付きたいと申し出てくれた方が過去3件程あった。特にそのうち1件などは大した量のコマーシャルを載せる訳でも無い割りに、十分サイトの製作、維持をカバーしてお小遣い程度になるくらい気前の良い申し出だったが、今の所は個人の趣味的サイトだし、スポンサーは受けていない。
それにしても、いよいよストライキ長期化が深刻化してきて本来未だ未だ忙しい時季の筈が閑古鳥が鳴いてまるで仕事にならない。私もずっと観光客みたいな顔でうまくすり抜けて出勤していたが、今日はデモ隊の1人にピケの前で止められ、10分ここで待ってから入ってくれと言われた。日本語で答えて誤魔化そうとしたが(笑)、がんとして受け付けないので、仕方なく待った。実際本物の観光客でもこの調子で止められるし、特に今日など寒いから、また改めて来れるような近隣の人なら引き返すかもしれない。最初から予定を変えてこの博物館を観光コースから外す人も多い。博物館は開いていてもこの調子で40パーセントくらい訪問者は減っている様だ。そもそも人を寒空(気温は早くもマイナス)で10分待たせておいて、その横で相変わらず太鼓叩いて踊っている姿は、正直馬鹿にされている気分で心地の良いものではない。
寒いが今日は天気は良かったし、反対側の角度から見るとこの様に平穏で美しいのだが。何にせよ明日の土曜ですら大して大きな宴会は入っておらず、ちょっとした仕込がある程度。キャンセルもだが、全然新しい予約が入らないのも仕方ない。反対側の国会議事堂の写真も前回より天気も良く、多少紅葉も入っている構図で撮ってみた。全くいかにも暇と言う感じだ。
何時までストライキが続くのかしらないが、こんなのでは冗談でなく、博物館の人達が帰って来る頃にはこっちが干上がって失業しそうだ。もう1月近く経つのに400名以上の従業員がストライキを続けていても営業出来るとなると、雇用条件の向上どころかそんなにいなくても大丈夫なんじゃないかと逆に思われても当然ではないのだろうか?現実に他所の博物館では半分以下の従業員が同様の仕事をカバーしている話は前に書いた。言い換えると今現在でも他の博物館に比べ、色々な意味で優遇されてている点が多い。だからこそ、合意に達しないと言う事もあるだろう。何故ならカナダを代表する博物館でストがすんなり成功して簡単に要求が通ったなんて事になれば、カナダ全国の博物館の従業員が黙っていないだろうから。


149.静かな土曜、ついには出稼ぎ?

(10月18日更新)

前回土曜日も大した宴会が無いと書いたが、実際僅か1件。それも70名足らずの結婚式が入っていただけだった。こう暇になっては宴会担当スーシェフが2人必要になる道理が無く、今日は急遽デーブが休みとなり、私以下3名でやると言う事だったが、前菜はスープ、後はメインとデザートの3コースのみ。3人もいらない。2人で十分なメニューだ・・と私が言ったので、2人のうちの1人セバスチャンが「じゃあ、僕は帰っていいですか?今週から新しい仕事(ケータリング)も始まるんで結構忙しくて」と言い出すので「いいよ」と答えざるを得なかった。しかし少なくともメインを出す時は70名近い数は少なくないので、実はセバスチャンと2人ならと言うつもりだった。彼は若いがお母さんも叔父さんもこの仕事をしていた関係から子供の様な時から調理場に入り7〜8年の経験があって仕事も出来るからだ。実は彼の叔父であるジョンとは昔一緒に仕事をしていた。もう10年以上前の事になろうか。その頃子供だったような若者がすっかり戦力になる程成長したかと思うと時の流れを感じる。もう1人のルイはセバスチャンより年上くらいだろうが、洗い場から見習いに昇格して日も浅い。勿論見込みがあるから昇格した訳だから、彼も十分やる気も見られるが、経験が浅いのは否めない。メインはローストビーフだったので、付け合せのグラタン ドフィノワーズ(ジャガイモのグラタン)と野菜は例の機械で温めても、ローストビーフはその場で切って、ソースをかけて、飾って・・とやると、この時ばかりは2人ではちょっと忙しかった。
とは言え、この程度なら私以外にもう1人いて、後は洗い場に1人いれば確かに十分だった。レストラン ウエディングでもないのにこの人数は結婚式としては小さいな(会場はサロン・ド・ヴォワイヤジュール)と思ったが、デザートの後更に40名程参加して総勢100名強に増えて同会場で二次会に突入すると言う変則パターンだった。後から来た40名はおつまみ、それもフランス料理のアミューズなどでは全く無くプーティン(フライドポテトにグレービーソースとチーズをかけたケベック名物のファーストフード)やピザなどのジャンクフードと言うお手軽さで深夜まで宴が続くと言う寸法だ。こんなのに2人で残っていても仕方ないので、コースが終わった所でルイは帰して1人で残る事にしたが、ファーストフードだろうが何だろうが時間の経過は変わらないのだから、仕事が終わった時はとっくに日付が変わっていた。何だか変わった結婚式だが、これが入っていなければ10月の土曜にゼロと言うとんでもない事態だった所だった訳だ。
今日は遅めの出勤だったが、ストライキな人達にまた止められるのは時間が勿体無いので前回「平穏に見える」と書いた反対側のオタワ川サイドから遠回りして調理場に直行した。写真に写っている橋から前回は撮影し、その時こちら側にはストライキ関係の人が誰も立っていない事を確認しておいたのだ。もっとも退社したのは15時間程後だから関係無い。この時間までやってるくらいなら支援しても良い。
ジョルジュから呼ばれ、「月曜、火曜はオタワ大学でバンケがあるから、私と君、後1〜2人連れて手伝いに行く様に向こうのシェフに話をつけてきたよ。何しろここにいても仕事がないしな」と嘆息していた。何の事は無い。出稼ぎである。火曜日には一応100数10名のパーティが1つ入ってはいるのだが、前述の様な事情から今度はデーブがいれば十分と言う訳だろう。たまには気分が変わって良いかもしれないが、こんな事が続く訳もないし、何時になったら終わるものやら。


150.売れ残ったベジタリアンとコンパスグループ集会。

(10月21日更新)

150回めのエッセイだから何か記念すべき事を書こうかと思ったが、別に数字に拘る必要もないので、思いついたときにちょっと普段と違う事を時々入れていけば良いかと、思い直した。
前回書いた「オタワ大学への出稼ぎ」は諸般の事情から中止になった。諸般の事情の1つとして、今週は結構忙しいと言う事があげられる。火曜の団体も150名に増えた。メニューは通常1つで、アレルギーその他のお客様に備えてベジタリアンメニューを用意するが、一応お客様へは肉料理(稀に魚料理)かベジタリアンの2つの中から選んでいただくと言う建前になっている。現実にはそういったアレルギーその他食べられないものがあるお客様だけがベジタリアンを頼むので、お客様の人数の10パーセントから精々20パーセントベジタリアンメニューを用意する事になっている。つまり150名のお客様だから15〜30人前程度までと言う事だ。ところが、昨日のグループはベジタリアン メニューが多そうだという事前情報が入っており、シェフの判断で90人前用意した。60パーセントと言う事だから、殆ど2種類の料理を1つのグループの為に準備したのと同じ事だ。まるで吉良上野介の意地悪に対抗する為に精進料理と生物料理の2種類を準備した浅野内匠頭みたいではないか(何だこの例は)。結局このベジタリアンは全部私が1人で料理して盛りつけたのだが、じっくり野菜のブイヨンを浸み込ませた大麦とイタリア米のリゾットをベースに野菜のティヤン(野菜の薄切りを重ねた料理)を乗せ、全体をかつら剥きの要領で剥いたズッキーニで包んで中が見えないようにし、軽く火入れをしたトマトのコンカッセを頭に乗せたもの。ソースも野菜のブイヨンをベースにトマトを足したものだから、外から見ると緑と赤しか見えず、ナイフを入れると他の野菜とリゾットが出てくると言う趣向だ。これはシェフに相談されて私が試行錯誤して改良した最近の定番の1つだが、90名分作ると流石に結構な作業だった。それは良いのだが、結果としてベジタリアンは何とゼロ!ベジタリアンがゼロと言う事自体は時々ある事だが、今回の様に150人に対して90人前も作ってと言うのは流石に前代未聞だ。事前情報とやらは何だったのか。やはり勅使接待に精進料理(ベジタリアン)が不吉だったのか(だから忠臣蔵から離れなさいって)。
今日水曜日の145名は我々の所属するコンパスグループの全国のシェフを集めての年度集会で、毎年やっているらしい。全国のシェフを集めて・・というからにはいかに食通を唸らせるかと考えがちだが、過去数年それで肩透かしを食らってきたらしい。皆肉と言えば牛肉のステーキを求め、シンプルなものばかり食べたがり、フランス料理の知識も殆ど無いと言う。コンパスグループは確かにカナダ最大級の飲食産業の会社だが、その殆どがカフェテリアを中心とする軽食の店が多く、本格的なフランス料理など出している所は他に無いようなのだ。
それでもジョルジュとしては、その条件の範囲内で精一杯アピールすべく、ちょっと凝ったアミューズのカクテル パーティの後、着席してポシェした鮭のサラダ、乾燥トマトと鶏のヴルテ(舌触りの良いスープの一種)鶏のクネル(すり身団子)添え、メインは牛フィレながら、シャンピニョンの衣に包んでステーキにしたものに、彩り野菜とグラタン ドフィノワーズを添えたもの。メインの後山羊のチーズの胡麻和えが出て、デザート、デザートの皿にココ パウダーとマンゴーソースでコンパス グループのマークを描くと言う詳細に拘った5コースだった。ちょっと分かりにくい写真だが、手前が山羊のチーズ、奥がメインコース、左奥がデザートで右奥が鮭のサラダ。見本用に盛り付けてみた時の写真だ。
因みにベジタリアンは昨日の残りを加工したが、辛うじて2皿出た。
明日も人数はそう多くないが数日前に1件予約が入って、アフガニスタンの料理を取り入れた物を作る事になっている。来週から博物館でアフガニスタン展が始まるので、その関係だろうか。それにしてもストライキ未だ続く中無事開催されるものなのか。 


151.見知らぬ国の料理を作る時は。

(10月25日更新)

昨日の土曜日は先週とうって変わって忙しかった。全部で4件入っていたが、2件は昼間。残りの2件が夜でそれぞれ220名と160名の2グループで前者はグランドホール、後者は上階のレストランカフェ・ド・ミュゼが会場だった。ジョルジュは休みで、人数は少ないがカフェ・ド・ミュゼの方は作業が多くて大変(スープなど季節柄小ぶりのカボチャを半分に割ってくり抜いたものを器にしたもので、これを160名分用意するだけでも大仕事だ)だったが、こっちはデーブが担当し、私はグランドホールの方を担当。副総料理長のマイケルが調理場に残って総指揮を取ると言う形で行なった。勤務時間は先週の土曜日と同じく15時間程度だが朝から晩まで駆けずり回ったようで内容は大違いだ。来る週の予約もぼちぼち入り始めてはいるが月曜、火曜は何も無い。
ストライキでかえって空いている所為か昼間の予約も意外と入る。勿論ストライキにも関わらず博物館そのものは営業しているのだから、昼間バンケが出来る会場は多くはない。レストランのカフェ・ド・ミュゼやカフェテリアの一部であるサロン・ド・ヴワイヤジュールは昼間でも貸切の様にしてパーティに利用できるが、これ以外にも今まで紹介してこなかった会議室が3つあり、ここは当然昼間の利用が可能・・・と言うより主に昼間使われる。前回書いた木曜日のアフガニスタン料理のパーティも実は昼間だったのでその会議室の1つであるサロン・ド・カスケードで行なわれた。ところで、アフガニスタンの料理など全く知らないのに作れるのかと不思議に思われるかもしれない。過去にも馴染みの無い国の料理を何度か作ってきたが、その都度お世辞もあろうが、故郷の味だとお褒め頂いた。こういう時は一応レシピは入手するが、レシピに忠実過ぎるとかえって“もどき”になってしまって、美味しくしようと言う根本姿勢が隠れて満足いくものにならないのは初期の失敗で懲りている。そこで私の場合は、自分の料理経験の範囲内でとにかく美味しいものを作る事を念頭に置くようにしている。ここで気をつけている点は「この料理にはこの材料と、このスパイスが欠かせない」とするものは必ず使う・・それもただ使うだけでなく、それが特徴的に印象に残る様に工夫する。逆に「この料理にはこんな材料はまず使われる事が無い」とされるものは極力使わないか、使っても表に出ない隠し味として使うと言う2点だ。何となく漠然としているが、外国で日本人以外の人達が料理を作っている和食店で「あれ?これは違うな」と思った経験のある方も結構いるのではないかと思う。例えば結構からっと美味しそうに揚がった天婦羅の横にサラダが添えられてたり、逆に薬味1つ足りないだけで台無しだなと感じたり、何より和食の真似をする事に重点を置きすぎてそもそも不味かったりする場合もある。
それを思い出しながら、逆にそういう評価を受けない様に努力していると言う事だ。ただ正直な事を言って、相手がアフガニスタンのお客様だからと言って、わざわざ外国(カナダ)に来て、無理やり他所の国の人が作った自国料理を食べたいものかどうか疑問に思う。招待者はよくこういう趣向を凝らしたがるのだが、例えば日本からここに来て(日本人が働いている事を知らなければ)余計な気遣いより、現地の名物、美味しいものをと願うのではないだろうか。勿論滞在が長ければ自国の料理が恋しくなる事もあろうが、カナダの様に世界中からの移民が集まる所なら、大抵の国の料理のレストランが存在するのだし。ま、これは私の疑問であって、人によって様々なのかもしれない。


152.博物館の秘宝とは。

(10月27日更新)

長いストライキが続いている。博物館の経営陣が裁判所に申請して博物館訪問者及び現在も残っている従業員を足止めする事を禁ずる法令を出してもらったので、少しは楽になった。何しろこの所エスカレートして足止め率ほぼ100パーセント、裏道まで全て張り込んで、先週末など15分待たされて調理場に通じるカフェテリアの入り口まで辿りつくとまた別の人達が立っていたので、流石に頭にきて「今そこで15分待ってきたばかりだ」と言ってそのまま入ろうとしたら、「おい、待て!あんた我々に対する尊敬が感じられない。微笑んで見せたらどうだ」と来る。馬鹿馬鹿しい。尊敬はしろと言われてするものでもないし、微笑めと言われて微笑めるものじゃない。無事この人達が帰ってきたら関係がこじれるとしても、こんな理不尽な要求には応じられない。
実際インターネットの投稿で、ストライキの権利そのものは支持すると言う意見の人でさえ、「私はストライキをする権利を支持する。要求を周囲に報せる権利も支持する。しかし、足止めは支持できない」と言うのもあった。支持しない人に至っては「仕事を維持する権利の保障を求めてストライキしているが、サーヴィスの満足度がこの人達の仕事の尺度であって、それを果たしてこそ仕事を維持出来る。今やっている事は全く逆効果で、こんなのでは首になっても文句は言えない」とする意見もあった。サービス業に30年近く携わってきた者として正直この意見に賛成だ。経営陣との交渉は幾らタフにやっても構わないが、お客様や無関係な人達に対しては彼等こそ微笑みを浮かべて理解を求めるべきではないのか。ストライキが長引いていらいらしているのは分かるが、サービス業の本質からどんどん離れては、お客様側から見て帰ってきて欲しい人材と思ってもらえまい。裁判所の法令の例外措置として、朝7時から9時までの従業員のみ出勤してくる時間帯の駐車場前では足止めを許可すると言う条項が残った。私たちは別会社とは言え、この時間帯に出勤する事が多いので、今日も地下駐車場は利用せず近隣の駐車場に停めた。どっちにしろ従業員駐車場は閉まりっぱなしなのだから料金は変わらないのだ。
今日も仕込みだけで夕方には仕事が終わったので、帰りにアフガニスタン秘宝展Afghanistan: Hidden Treasures )覗いていった。
この秘宝展に合わせて、表のストライキのピケ前では白黒の写真がずらっと展示してある。一見すると、路上の似顔絵描きの人が並べている見本の様に見えるが、その数は相当ある。タイトルは「ストライキ中の宝」。
彼等は主張する。「この写真の人達こそが博物館の真の宝。残念な事に今は道路脇に展示されているが・・・」と。
それは確かにそうなのかもしれないが、自分達の事を自ら「宝」と呼ぶ事に違和感を覚えるのは私が日本人だからだろうか。
幸い木曜日には250名近いグループが1つ入っているので週末までまるで暇と言う程では無いが、カフェテリアを覗いても実に静かだ。何にしても早い解決をと願わずにはいられない。


153.カナダ統計局の計算とは。

(10月29日更新)

ジョルジュは今週は休みで、デーブもオフ、マイケルも昼間でで帰ったので、今日の240数名の予約は私が仕切ったが、私以外に5人いたので楽だった。しかも食前酒にアミューズブーシュなどのあてはなく、前菜、メイン、デザートの3コースのみ。
しかし、常に何かしら計算通りに運ばない事態が起こる。実際には240数名どころか180名程になってしまったのだ。しかも食前酒は立って演説など聞きながらのものであった為、着席して前菜を出す段階になって初めてテーブルが幾つか余っている事が分かったのだ。この人数だからグランドホールが会場だった為、勿論前菜を出した段階でメインコースを暖める機械のスイッチを入れるよう厨房に無線で指示した。今更減らすには当然無理があった。デザートは何とか抑えたが、それだってある程度事前に準備は完了しているわけだ。
前回このグループが250名近いと書いたが、その前日までは210名で予約が入っており、前回のエッセイを書いた27日の時点でこの人数に増えたのだった。ところが、蓋を開けてみれば元の予約人数を下回るとは・・・。
例によって15パーセントくらい用意しておいたベジタリアン(今日は野菜のカネロニ)はほぼ全部出たので、メインの鶏が大量に余った。もう火が十分に通り過ぎて、カフェテリアと言えども再利用は難しいので、賄いにでも使うより手が無い。
ちゃんと元の人数分払ってもらえれば損はない訳だし、仕事としては成功かもしれないが、勿体無い話ではある。
因みに今日のこのグループだが、皮肉な事にカナダ政府の統計局のパーティであった。
今月は何とか二桁の更新をと思ったが、おそらく今回の9回目で最後になりそうだ。未だ2日あるのだから無理やりもう1回書けば書けるだろうが、それより来月も早い内に更新を目指した方が良いだろう。9回ならまあ悪くないし、今月は写真もほぼ毎回更新したので良しとしたい。