Essai 2011年11月
249.研修生のインタビューに応えて。
(11月7日更新)
紅葉も終わりに入り、クリスマスを前にした月だからだろうか、流石に11月に入って宴会も少しは減ってきた。それにも増してレストランは開店休業の状態の様だ。昨日のブランチですらかなり暇だったが、それでも辛うじてお客様が来るのはこのブランチくらい。今は平日は(と言っても前述した様に日曜のブランチ以外は水、木、金しか開けていない訳だが)ヒューゴが1人でやっているのだが何とこの11月最初の週水木金の3日間で1人しかお客様が来なかったと言う。つまり2日間はゼロ・・・残りの1日1名と言う事か。聞いたことも無い暇さだ。単独のレストランならつぶれているところだ。間もなくこのレストランが閉まる事もあって前回書いたガラス張りの外は工事中。せっかくの絶景も半減・・以下なのだから仕方無い。平日の為にヒューゴが仕込んだ食材は使えるだけ使ってブランチメニューを組んだがブランチ自体大して忙しくないのだから無駄は相当出た。そもそもブランチは相当忙しくても、他で出た余った食材を転用しても赤字率は高い。つまりはお客様にとってはお得だし、宣伝さえ行き届けば客足の安定は十分出来たと思うが、新しいビストロではやはりブランチは消える事になるのだろう。ブランチの定連さんがここ一年程でぐんと増えただけに会社の都合で閉める(新しいビストロが儲かるとは正直思えないのだが)のは申し訳ないような気持ちだ。
昨日は前から約束していたのでブランチの後調理師学校からの研修生であるキューのインタビューを受けた。単に文章に起こすだけかと思って気軽に引き受けたが、ビデオに撮りたいと言うので慌てた。結局それは勘弁してくれと静止写真と録音だけにしてもらったが、それにしても照れてしまう。「何で私なんだ」と文句を言ったが、「学校からシェフのポジションにいる人のインタビューを撮って来いと言う条件で宿題を出されたんで、ジョルジュ・ローリエ シェフかNakiしか知らないし、どっちが頼みやすいかって言ったら・・・ねえ」と言う。そりゃまあそうかもしれないが。
朝早く起きてのブランチの後だし、約30年に渡る経験の中から色々思い出せと言われても殆ど出てこなかった。前もって質問内容を伝えておいてくれれば考えておいたのだが。勿論後から、例えば今ゆっくり考えれば十分思い起こして答えられるのだから。
ただ1つこれは良い質問だと思ったのは、「今まで他の仕事をしていた人が、この仕事に参入するとしたらどんなアドヴァイスを与えますか?」というもの。これは折に触れて発言していることだが「儲けようと思ってこの業界に参入するなら止めた方が良いと言う事ですね。この仕事は真面目に、つまり正直な仕事をする限り面白いほど儲かるものではない」と答えた。
実際その辺の所を誤解して安易にこの業界に踏み込んでくる人が多すぎると思う。バブルの頃ならともかく今この仕事でびっくりするほど儲かるとすればどこかで不自然な事をやっている可能性が高い。あまり色々書くと差し障りがありそうだから止めておくが、少なくとも同業者なら意味する所は分かると思う。門外の方なら例えば一例として産地偽装や食材の使いまわしで閉店した有名店などを想起してもらえば良い。
それ以外にも見た目の出来上がりは同じ様でいて、美味しいものを作るにはそうでないものの何倍も手間がかかる。つまり短い時間で済ませても「何か美味しくないな」と感想は持たれてもとりあえず仕事として成立するだろうが職人としては最低だ。プライベートな時間を犠牲にしても大して儲からなくてもお金を払って尚且つ「美味しかったよ」と言ってくれるお客様の有り難さ。それに喜べる人でないとこの仕事を続けるのは難しいというのが長年かかって得た実感と言う事だ。