エッセイ2010年8月

194.宴会の下見。

(8月8日更新)

 何だか更新しない不精癖が付いてしまった様に今月も8日になってしまった。今月は暇とは言えないかもしれないが、ごく通常業務しかないのだから、十分このページを更新するくらいの時間はあるのだが。
それでも先週は木曜にまあまあの規模のバンケがあり、土曜は3件掛け持ち。マイケルは休暇中だったから結構どたばたしていた。3件掛け持ちでマイケルがいないとなると、一応全部に目を配りつつ、それぞれの場に人を割り振る訳だが、時には力不足のスタッフに過分な責任を負わせる事もあり、頭数さえ揃っていれば良いと言うものではないのだから難しい。
皆秀でている部分と足りない部分があるのは当然だが、こういう状況(皆が一斉に夏休みを取っているような時期)下では、同じ様な所を苦手とするスタッフが固まったりしてしまう訳だ。要は私のリーダーシップにこそ問題があると言う事かもしれないが。
 デーブが帰ってきたが、今日の日曜日ブランチは私とデーブの2人でやって、他のスタッフは(深夜にスナックを出すので昨夜残ってもらったりもしたので)休んでもらった。デーブと2人でブランチとなれば、レストランのシェフは彼なのだから、私はシェフを休んで、単なる料理人として手伝うだけだから、本当に楽だ。
ブランチと言えば、先週の日曜には来月バンケを予定しているお客様が見えた。「ここには何人シェフがいるのですか?」と聞かれるので、「料理長ですか?料理人の数ではなくて(イギリスなどでは全ての料理人をシェフと呼んだりするのであえて尋ねた)・・それなら総料理長、副総料理長がいて、後は宴会料理長、レストラン料理長・・」と応え始めると、「その宴会料理長の方は今いらっしゃいません?」と言われるから「それは私です」と答えると9月の予定をおっしゃられたと言うわけだ。その内容には覚えがあったので、「ひょっとして、先日デギュスタシオン(テースティング)にいらっしゃいませんでしたか?」と聞くと、やはりそうだと言う。アミューズブーシュ、カナッペの盛り合わせのデギュスタシオンは珍しいから私も内容の詳細までよく覚えていた。「私個人としては、貴方の{一口ジャガイモのパリジェンヌ魚の紅白卵詰め}と言うのが一番気に入ったけど、魚の卵が駄目な人もいる様だから本番では残念ながら外してもらう事になると思います。でも丁度シェフに会えて良かったわ」とその後幾つか確認した後、会場の下見も十分時間をかけてされていった。意外とここまで熱心に下見に(勿論ブランチも堪能されたが)来られるお客様は少ない。サミットの外相級懇談夕食会でも特に下見に来た人は見かけなかったが(笑)。

195.行きつけの場所ともなると・・・

(8月18日更新)

 大分気温は下がったが、未だ暑い夏は続いているし、バンケも毎日では無いが、週末を中心に結構入っている。今週は月曜にも大広間で一件あったが、その後は週末に集中していて、週の半ばは昼間の軽食バンケが数件入っているだけなので、昨日の火曜と今日と連休を取った。毎週確実に休みが取れているし、大体週の頭くらいが休みとなるから予定も立て易い。1月以上休みが取れず、何時が休みになるか全く読めなかった数ヶ月前とは雲泥の差だ。
 今日は久しぶりにオンタリオ側に渡り、オタワの町で幾つかの用事を済ませた後ガテノー市ハル地区のショッピングモール、ギャラリー・ド・ハルで過ごした。ここはWi-fi(無料ワイアレス インターネット)エリアなので、よく利用する。他にこの近辺でWi-fiがあるのは他ならぬ職場、つまり博物館のカフェテリアで、仕事で使う事はあるが、まさか休みの日には行かない(笑)。そう言えば前の職場もホテル全体がWi-fiエリアだった。何処もIT化は進んでいる。
 先日もこのギャラリー・ド・ハルでネットにアクセスしていたら、バンケの部下であるヒューゴと見習いのハメッド、洗い場のワリドが3人でやって来て、「こんな所で調べ物ですか?」と声をかけて来た。ワリドは「シェフNaki、私服だとがらっとイメージが変わりますね。分かりませんでした。」と言ったが、ヒューゴが即見つけたようだ。3人はすぐ連れ立って出て行ったが、しばらくすると別の洗い場のダニエルが下りてきた。別に先の2人と待ち合わせた訳でもないらしいが、いかにハルに繁華街が他に無いかと言う証明だ。こちらもエスカレーターに乗っている内に気付いて「シェフNaki!」とか言って寄って来た。ラファエル他4名ほど私を「シェフNaki」と呼ぶスタッフはシーズンが終わって去ったので、今やそう呼びかけるのは洗い場のこの2人とハメッドくらい。ヒューゴやムサもたまに外部の人間の前とかでシェフと呼んでくるが、基本的にはNakiと呼ぶので、寄しくもその呼び方をする人間がここに集まった訳だ。全く、こんな所で「シェフ」とは・・・。
 その時座っていたのはエスカレーターから下りて来ると真正面みたいな場所だったので、今日はその裏側に陣取った。ところが、またもや私の後ろの席から「やあ、シェフ、今日は休みですか?」と声が掛かってドキッとした。もしかしたら他の人の事かと思わず周りを見渡したが、やはり私の事で、振り向いた。すぐには誰だか分からなかったが、業者の人だった。業者の人は大勢いるとは言え、これまた私に「シェフ」と呼びかけるからには、バンケの食材(ジビエなど、カフェテリアは勿論レストランでも滅多に使う事は無いからバンケ専門の食材は多い)を卸している人な訳で、すぐに分かってもよさそうなものだったが、それこそ、カジュアルな格好をしているので分らなかった。寧ろ向こうがよく分ったものだと感心する。チェルシーやウエイクフィールドならアジア人というだけで目立つが、ここでは珍しくも何とも無いのだから。流石に商売人は違う。
 それにしても、わざわざ目立たない席に行ったのに・・・。 


196.山道を登りつつ・・

(8月25日更新)

 夏真っ盛りにわざわざガテノー公園の傍などと言う不便な所に住みながら、毎日都心との往復だけではあまりに馬鹿馬鹿しい。今週は月曜からバンケが入って忙しい思いもした事だし、今日の休みは久しぶりにガテノー公園に行った。意外と人の少ない穴場であるブラックレイクのトレイルを目指す。入り口のベンチで涼を求め、聊か場違いな電子書籍を暫く読んだ。ここからは木々を挟んで湖が見えるので、涼むには最適だ。その後トレイルを進む。穴場と言うだけあって途中2度人とすれ違った程度で誰もいない(時間帯や日にもよるが)。誰もいないと静かで良いのだが、ここは公園と言ったって太古からの自然を保存し、道を整備しているだけだから、一人歩きには熊などへの注意が必要だ。トレイルと言っても人間が勝手にそこを道にしただけであって、熊は元々ここに住んでいたのだから責められない。そんな事を考えながら歩いていると、普段の生活の中でいかに自然に逆らった事が横行しているかと言う思考に落ちて行った。プロの料理人と言っても近頃は肉は言うまでも無く、魚も切り身で届く。今は知らないが、ドイツにいた時、鶏を部位で売ってるのを見たことが無かった。家庭の主婦でもゾーリンゲンの料理鋏など使って鶏を捌いていた。日本ならそれでも魚を卸すのなど新米料理人でも私よりうまいのじゃないかと思う。そんな私がたまに丸ごと届くオヒョウなどを卸していると、調理師学校卒業して5年も経つような人間まで関心して見ているのがカナダのレベル。それでもケベック州の調理師学校を出た者は他州よりは格段にレベルが高いと思うが。狩猟民族だけに肉についてはそんな事は無いようではある。逆に日本では養鶏業者の下に鶏の卸し方を習いに行く料理人の卵もいるそうだ。それでも自分から習いに行くだけ救いがある。
しかし狩猟民族の末裔と付き合っているとやはり自分は農耕民族の末裔だと感じるから不思議だ。広大な大陸を食べ物を求め移動してきた人々のDNAと、狭い土地に根を卸し、何代にも渡って土地を耕してきた民族のDNAの違いとでも言おうか。最近「草食男子」だとか言うのが日本で流行ってるらしいが、元々日本自体草食民族だと言えるのでは無いだろうか大体日本人は若い頃肉食でも年齢と共に魚やさっぱりしたものを求める傾向が強いが、ここでは80歳過ぎた人でも「あまり沢山食べられ無いので何か軽いものが良い。クリーム系のパスタは無いか」などさっぱりしたものとはかけ離れたものを注文したりする。要は本のところで何代にも渡ってそういうものを食べてきたと言う事で、日本人は原点が魚やさっぱり系か・・・などと思考をあっちこっちに飛ばしつつ、かなりの勾配の山道を久しぶりに息を切らしながら登っていくと頂上に2箇所程展望の開けた場所がある。紅葉ともなればここを目指す人もあるにはあるだろうが、狭いし、大抵皆車で登れる数箇所の展望台へ行くから、苦労して登ってくるここはやはり穴場と言える。見下ろす先に見える川はかつて毛皮交易の為にネイティブ カナディアン達がカヌーで辿った道程だ。狩猟民族の原点がここにある。

 *このエッセイは8月25日のものだが、その日サーバーの調子が悪く、何故か自分のページが開けなかった為更新に失敗。遅ればせながら更新した。


197.残暑の中

(8月31日更新)

 暫く過ごしやすかったが、またここ数日暑さがぶり返し今日も最高気温32度、夜も22度であるからまあ熱帯夜と言える。それでも猛暑の日本列島よりはまだましだろう。これはもう地球温暖化が表面化してきた証拠なのだろうか。
 8月の宴会は週末に集中し、週の前半はわりにのんびりしていたが、9月は大分結婚式も多く、また少し忙しくなりそうだ。カナダの事だから、9月ともなると遠からず涼しくなる事と思う。夏が暑いと、急激な温度変化で紅葉が美しくなる事が予想されるから悪い事ばかりではない。
 またデーブが一週間休暇を取っているので(つまり二回に分けて夏休みを取った)日曜のブランチもメニュー作りから仕込みまでやりつつ、勿論週末は本来の担当である宴会もあるから、先週末も結構ばたばたした。もっともヒューゴと2人でやったブランチ自体は暇だったし、早く片付いて翌日も何も入っていないから早々に帰宅出来た。丁度片付け始めた時何ヶ月ぶりかで恭子さんが来た。彼女はブルックス ストリート ホテルの方がフルタイムで忙しいものの、うちの会社を完全に辞めた訳では無かったので、いよいよ正式に辞める由をマイケルに告げにきたらしい。しかしこの所マイケルは毎週末土、日と休んでいるのでその時もいなかった。せっかくだからと、こっちも仕事が終わった事だし、最近立派な門も出来てよりそれらしくなった中華街に一緒に食事に行き、色々と話を聞いた。郊外でバスで通うのが大変そうだが、新しい仕事は楽しいようだ。私も日本の両親等と電話でたまに話す以外では、本当に久しぶりに日本語で会話した感じだ。
 つい先ほど学生時代の友人からメールが届いていた。検索して私のサイトに辿りついたと言う。昔英語のサイトを作っていた時は試みに自分で検索しても全くヒットしなかったし、このサイトも最初の一年くらいは全然ヒットしなかったらしいが、今はかなり少ないキーワードでもヒットするらしい。スポンサーに付きたいと言う申し出(つまり広告を載せて欲しいと言う)も数件頂いた事もあるほどだ。しかし、お陰で没交渉になってしまっていた昔の友人と連絡が取れる事は有難い。