エッセイ 2009年9月

  

137.馴染みのスタイル。

(9月3日更新)

本当の所、特別書く様な話題も無いが、今月はなるべく更新するつもりなので、今のうちから書き始めたい。どうせなら、単なる日記みたいにならず、エッセイらしい話題も今月は少し増やしたい方針だが、今の所は普通に日々の話題から入ろう。
9月、10月は忙しいと言っても、最初の2週間くらいの宴会は週末、それも土曜日に集中しており、残りの日は全てその準備に当てられる事になる。しかし冷凍の利くものなどは忙しくなる前にやって置けるのは今の内だから、昨日はそういう仕事を中心にやり、今日から土曜の準備に入った。例によってこの文明博物館と戦争博物館に分散されるが、戦争博物館の100名強がコースメニューで、こちらの方が大変そうだ。と言うのも前回述べたように戦争博物館の設備では、ぱっと一気に暖めて出すなんて訳には行かないからだ。しかもVIPでもあり、基本的に付け合せに至るまで全てミザンプラース(仕込み)だけやっておいて、現地で全てア・ラ・ミニュート(その場で即座に)調理して出す事になる。このスタイルでやると100人程度と言えど、小さな団体とは言い難い。もっとも私はずっとこう言う方法でやってきたとも言える訳で、この方がちゃんと料理している気になれるかもしれない。
昨日はそんな訳で急ぎの仕事も無かったので早く終り、私書箱をチェックする為に郵便局に(普段は開いている時間に行けない事も多いので)寄ったが、そこでル・フジェールのチャーリーと会った。
「Naki!イギリスからお袋が来てるから、ついさっきウエイクフィールド・ミル(ル・ムーラン・ウエイクフィールドの英語名)に昼を食べに連れて行ったら、Nakiは辞めたって聞いてびっくりした所だよ」と言う。
そう言えば未だチャーリーとジェニファーには話してなかった。2人の結婚記念日サプライズパーティの時にはもうこの話は内定していたが、レストランの関係者も少ない個人パーティだし、お祝いやちょっとした思い出話をする時間を作るのがせいぜいだった。
まさについさっきル・ムーランに行ったところなんて凄い偶然の様であるが、何となく相手の事を考えているとその人に会う・・と言った経験は結構あるものだ。何と言ってもお互いチェルシーの住人で郵便局もスーパーマーケットも一軒しかないからふと会う事もそう珍しくはない。


138.盛り付けの方針。

(9月7日更新)

前回書いた土曜の戦争博物館の結婚披露宴はまたデ−ブと組んで行った。前菜、メイン、デザートの3コースだったので、実際には忙しい思いをしたのはメインだけで、スムーズに終了した。設備が足りない分は昔ながらの人海戦術でカバーしたが、まさに前述どおり私にはお馴染みのスタイルだ。面白い事に契約書類を見たら、式は「昼“Les Fougeres”にて」と書いてあった。つまり昼食はおそらく立食か何かで軽くフジェールで済ませ、そのままこちらに来たと言う事だろう。何しろ23〜24年の付き合いだ。チャーリーとジェニファーがどんなメニューを出したかまで大体想像がつく。
文明博物館の方もその日は一軒のみで、しかもブッフェスタイル・・・それも全て冷製のものばかりだったので、我々がいる間に全部盛り付けが完了した。
ブッフェスタイルで冷製ばかりとなると、盛り付けで或る程度華やかさを出すしかない。アミューズ ブーシュは勿論、チーズやフルーツにも一工夫加える必要がある。
とは言え、滅多に大袈裟な事はやらない。例えばフルーツだが、ちょっとこの写真を参照して頂くと分かるが、別に複雑な技術(そもそもそんなものは持っていないのだが)は使われていない事に気付かれるだろう。多少の細工は施すが、私の方針としては食べる事が常に前提となっている。野菜の彫刻なども人気で、タイのシェフ達が得意とする野菜のカービングなどは見ていて惚れ惚れする見事なものである。しかし、まさかその場で生野菜(それも瓜などの硬いもの)を叩き割って食べようとする人はいないだろう。例えスイカの様に叩き割れば食べられるとしても、中が取り出せる様にもなっていない芸術作品を壊したら周りから顰蹙を買うのは間違いない(笑)。
そう言う事を考えると、私などは「だったら野菜じゃなくても良いんじゃないか?」とか思ってしまうのだ。「いや、実は野菜で、後で料理して食べられるからこそこうしたパーティでは意義があるのだ」と言う考え方もあるだろう。その通りなら確かに意義がある。しかし、実際には、その出来栄えのあまりな見事さ故にパーティが終わっても次のパーティまで保存して復使ったり、お客様が持ち帰ったとしても何時までも飾っておいてやがて腐って捨てると言うパターンが多いようだ。
だから私は、あくまでその場ですぐ食べられる様な細工しか普通やらない。更に言えば、何とか食べられると言うのでは無く、プレゼンテーションは無視しないが、食べやすい様にと自分なりに研究している。不鮮明な写真で恐縮だが、上記の写真から少しはそれが伝わるだろうか?チーズなども一見見た目重視の様であっても、実際には端から順番にすっと取って食べられる様に考えている。
またブッフェが数時間に及ぶ事を考慮し、最初の何人かが摘んだ後も、それ程見栄えが悪くならない様にと言う事も考えているが、こういった事は未だ試行錯誤だ。これは温製のメイン料理や野菜でも同じで、ル・ムーラン時代はメニューを作る段階から、これなら時間が経っても表面が乾いたり、色が変わったりしないかなと言うものを中心に考えたりしていた。これは自分で全部メニューを作れた特権だったが。
勿論宴会は特別な日の料理と決まっているから、演出の為に色々やらなければならない事もあろう。今回はあくまで私の基本的な考え方を披露したに過ぎない。


139.アミューズ ブーシュは一口だけど。

(9月15日更新)

成る程流石に忙しくなってきた。前前回最初の2週間位は週末に宴会が集中していると書いたが、実際には平日もどんどん入りだしている。先週も木曜日に500人のカクテルパーティが入ったので、休みを返上した。そもそもこの職場に来てから一切定休日と言うものは無く、2週連続で同じ日に休んだ事が1度も無いと言うのが凄い。週休2日と言う事があっても連休と言う事は殆ど無く、その週に2日休んだのか、2週間で合計3日休んだのか定かでないと言った感じだ。
勿論こういう状況である事を承知で引き受けた仕事だから別に文句はない。
しかしカクテルパーティ500人などは全て一口大のアミューズブーシュで、多くのお客様はこれでお腹一杯食べようとするから、仕込む量、種類は半端ではない。そもそも一口で食べられるからと言って、準備にかかる手間は大きなものと変わらない。例えば小粒のトマト スリーズ(直訳するとさくらんぼうトマト、プチトマトの1種)の頭の部分をちょっと開いて貝の蓋の様に持ち上げ、中をかき出して、代わりにラタトゥーュを詰め込む、これなど大きなトマトで作って軽く火を通せば十分大きな前菜になるだろう。ところが食べる時は人によっては2つ3つまとめて口の中に放り込んだりする(苦笑)。つまり、大きなトマトで作るのを1人前として考えると、こんなのを18ダース作れば216人前作るのと同じ手間がかかる。いや寧ろ小さい分余計に手間がかかると言っても過言では無い。見た目も大事だから、地元産のチーズをごく薄切りのナスで巻いた後、シブレットで贈り物を包むように十文字に縛ったり・・日本でもポピュラーな生ハムメロンなどは簡単だが、とにかくこんな調子で冷製、温製合わせて数十種類も用意するとなると、結局500人前と言っても数千人前の前菜を準備するのとさして変わらない手間がかかると言う事だ。
カクテルパーティと言うのは、自分で参加した事がない方でもテレビドラマや映画などで見た事はあるのではないかと思うが、飲み物を片手に持ったお客様の間をトレイにこうした一口大のおつまみを持ったサービスの人達が往来する。この後食事が控えていると言う訳でも無いとなると、これだけ手間をかけてもほんの一瞬で消えていく。ウエイトレスが会場にトレイをを持って入って、すぐUターンして帰って来るから忘れ物かと思えば、もうすっかり空になっている。
週半ばでさえこれだから、週末は数百人規模の宴会が数件入っている。
明日は水曜日だが、200人のグループを筆頭に小さなものが1〜2軒入っているし、月、火も小規模ながらゼロではない。明日の200人のグループは、カクテルパーティの後、コースメニューとなっている。両方準備するのは大変な様だが、アミューズ ブーシュをお腹一杯食べる事を考えれば楽としなければならないだろう。


140.盛り付けの方針 その2

(9月20日更新)

前前回、「盛り付けの方針」として、食べられないものは飾りに使わないとか、食べられなくて良いなら野菜や果物で無くても構わないのではないかとか書いたところ、食べられない細工は絶対しないのかと言う意見をいただいた。
その時も基本的な方針に過ぎないと書いたし、頼まれれば出来る範囲でやらない訳ではないが、そうでなくてもCrudité(生野菜のスティック)やチーズ、あるいはアミューズ ブーシュなども盛り合わせとして出す時など、冷製の食べ物の大皿を飾る必要がある時などは、やはり野菜や果物などでないとならない。これは1つのルールみたいなもので、必ずしも今は皆守っている訳では無いが、一緒に飾る花などにしても食用花が原則で、要するに口に入れられるもので飾るのが普通だからだ(例え生で食べる事の出来ない野菜であったとしても)。だから、こんな場合には多少細工をする事もある。ただ、なるべく元の野菜の形を活かし、再利用しやすい様にくらいは考えている。例えばこの写真の花瓶に擬しているのはCourge de musque(バターナッツ スクワッシュ)の元の形をご存知なら、それをひっくり返した物と容易に分かると思う。その上でくり抜いてある部分も種の所で、どうせ調理前に取り除く所だから、後で使う事を考えると合理的だ。因みに手前のホオズキが入っている籠は食パンを揚げて作ったもの。季節がら散らした楓は言うまでも無く人参で、食べられないのはチーズの名前を書いた旗くらいだが、これくらいは許してもらえるだろう(苦笑)。
特にパティシェをしていた時、デザートは最後にレストランの印象を決めるから、或る程度プレゼンテーションに気を使ったが、複数の色のソースを合わせても、それなりに、味のコンビネーションと合わせて考えたものだった。10年以上前の写真で恐縮だが、或るバレンタインデーに作ったパッションフルーツのムースを見ていただきたい。ソースはじっくり煮込んだ木苺のクーリーのみ、味の異なる3種類のクッキー、ちょっと苦味の或るスプリング状に巻いたカラメル、敢えて大きめに切手歯ごたえを残した生の苺、全てはパッションフルーツのムースを引き立たせる事を中心に考えつつ、バレンタインデーがテーマだからハートを出来るだけ多くと言うだけの前提で作ったものだ。実は一番大変だったのは左右(真ん中のは型に入れて作った)2種類のチュイール クッキーをハート型にした事だったと記憶している。これはオーブンから出て熱いうちに鋏で棒状に切り、一瞬にして手で1つ1つハート型に形を整えたもので、こうやって説明すると簡単そうだが、相当困難な作業だった。しかも確か丸1日(昼と夜の分)で100組くらいのカップル分(つまり200人前くらい)作ったのではなかったかと思う。別な例では同じ頃作ったこの米のプディン、プディンそのものは割と淡白で日本人が作ったものらしく甘さも控えめ、その上軽く表面をトーチであぶってあるからまるで餅みたいに見えると思う。これなど、御飯とおかずと言った発想で、プディン以外のものはわりと派手に配してある。マンゴーのソースに、木苺のクーリーとクレム フレッシュ、苺、木苺、ブラックベリー、ブルーベリー、カラメルの籠を乗せて季節の食用花まで散らした。味も含め、本体が地味な時は少し周りでバランスを取っていた。
その頃も今も、私の盛り付けに対する考えは変わっていない。
つまり全てのディテールは口の中に入る一瞬の為にやっていると言う程度理解していただけば幸いである。


141.眠らない博物館、しかし・・・

(9月23日更新)

今週は本来物凄く忙しい週である。昨日の火曜なども250名を頭に4つの宴会が入っていたが、3つまでがキャンセルになった。理由は月曜日から始まった文明博物館従業員のストライキである。400名以上の従業員がこのストライキに参加。駐車場等も利用できない為、続々とキャンセルが相次ぎ、唯一40名の小規模の宴会だけが残った。全部キャンセルにならなかっただけましである。このグループはちょっとこったアミューズ ブーシュを6種類、1回に2種類ずつそれぞれに合わせたワインと共に味わい、前菜のカナダ先住民風サラダ、メインの雉料理、地元チーズの盛り合わせ、デザートのクレム ブリュレにもそれぞれワインを変えると言う所謂デギュスタシオン スタイルの会だったが会場は5階のカナダホールであった。ここでの宴会は私が来てから初めてだが、私としては博物館内で一番好きな場所(勿論自分がお客であるとして考えた場合)だし、着席50名程度までの収容力ながら、利用料金もリーゾナブルでお勧めだ。前にも少し書いたと思うが、要するにここは古き良きカナダを再現したテーマパークの様な場所だ。
ただし、料理を供する側としては当然作業が難しい。そもそも、コース料理を順番に上階に運んでセットアップするだけで大変だ。通常のエレベーターではなく、昔の船の横の作業場を再現した小屋の壁をガラガラと開けると巨大なエレベーターが現れる。優に自動車2台は並んで乗れる広さだ。実際に昔の車なども展示されている訳だから、ここから運んだ訳だろう。昔、「このピアノは何処から入れたのか考えると夜も寝られない」とか言うギャグを言う芸人がいたが、こういう物が裏に隠されている訳だ。それにしても5階まで運ぶには危険が伴う。着いてからも展示物の間を縫って運搬し、それこそ昔の食堂になっている場所で仕上げて、そこからサービスの人達に手渡される。お客様としては、昔の町で、1年中秋の夕暮れの様な設定になっているこの仮想の町の野外で食事をしている気分になれるから、もっと人気がありそうなものだが。
400人ストライキしていても博物館そのものは開いているのだから、相当な人数の人間が働いている。飲食関係は私の所属するコンパスグループが担当していて別会社だが、この会社も大会社だから組合があり、私たちも強制的に組合員になっているから、いつかストライキなどに巻き込まれないとも限らない。
夢を売る博物館そのものは眠らないが、人間社会は色々と面倒な事がある。
問題は金曜、土曜だ。金曜は400名クラス他、4組程、土曜も4組程入っているが、土曜の最大のグループは1000人以上だ。あくまでも1つのグループが1000人以上なのであって、他のグループも相当な規模だ。これ等のうち、どれがキャンセルになったとしても大損害である。とにもかくにも万全な準備を進める必要はある訳で、また明日は休みの筈だったが、出勤だ。9月、10月はそういうものと分かっているので休みがキャンセルになるのは構わないのだが、その挙句にキャンセルと言うのは御免こうむりたい所ではある。もっとも圧倒的に結婚式が多いのだから、そうそうキャンセルはしないと・・・は思うのだが。


142.ストライキと寄付金集めと忙しい週末。

(9月27日更新)

ストライキは相変わらず続いているが、前回書いた初日にキャンセルが続出しただけで、結局その後の予約は全て予定通り決行された。そういう訳で金曜、土曜は共にほぼ15時間ずつ、今晩の日曜も1組だけだが200名程のグループが入っていたので12時間勤務したので3日間だけで、普通のサラリーマンの1週間の基本勤務時間を超えている。いや休みも返上しているから実際にはその倍程か。
忙しい週末であった。勿論来る週も間中くらいからかなり大きなものが入っている。
昨日は例の1000人のグループが入っていた日で、このグループを含め文明博物館で全3組、戦争博物館で1組。文明博物館の3件をジョルジュと他のスーシェフ達がそれぞれ担当したので、結局私は戦争博物館のバーニー ダンソン シアターで行なわれた寄付金集め(癌治療の為の)のパーティを担当する事になったので、実際には文明博物館がどれほどハードだったかは仕込みの段階までしか知らない。
もっとも私の方もそう気楽だった訳では無い。そもそも戦争博物館の方も一緒にストライキに突入しているので、ストライキに参加している人達にトラックごと止められ、30分搬入専用門の前で待った。まあこれは織り込み済みで、待ち時間も30分になるだろうと前もって情報が入っていたのでその分早めに到着していたから如何って事はない。しかし70名のお客様と言う事で、何しろ文明博物館の方で手一杯なのだから、私と一緒に行った料理人は僅か1名!後は洗い場と運転手のみ、この2人にも少し手伝ってもらうしかなかった。このパーティはカクテル パーティでバトラー方式(前前回書いたサービスが片手にお盆をささげ持って飲み物や食べ物を配り歩く)のアミューズ ブーシュと2種類の肉(子羊の詰め物と、七面鳥)のローストのデクパージュ(お客様の前で切り分ける)、後はフルーツとチーズの盛り合わせを出して、デザートも一口大の物をバトラー方式で配ると云う物だった。しかし、2人でデクパージュに出れば調理場には誰も残らないのだから、その段取りが難しかった。しかも何と到着してみたら人数が120名に膨れ上がっていると言う。無茶苦茶な話だ。こっちはせいぜい余分に用意しても10名分くらいしか見込んでない。70名が120名に、それも行ってみたら増えてたなんて流石に驚いた。急遽冷凍庫に保存してある温製のアミューズ ブーシュを追加でドライバーで取りに行って貰ったりしたが、子羊と七面鳥の方が足りるかどうか心配だった。ところが結果としてはどちらも十分余ったのだから、長年やっていてもこの商売は本当に読めない。それと言うのもパーティの進行が、中々食べ物を摘むタイミングをつかめないうちに食べ物を供する時間を終了してしまう様な感じだったからだ。
最初の主催者の挨拶で、「豪勢に着飾った皆さんでハリウッドのガラディナーなんか目じゃないですね。そんな雰囲気に合わせて本日はジュノー賞(カナダ版のグラミー賞、もしくは日本のレコード大賞の様な物)を受賞したジャズシンガーの○○さん(昨日は名前を覚えていたが、あれからずっと忙しくて完全に忘れた)に来て頂きました。今宵はジャズと、ダンスとお料理をお楽しみ下さい」と言うから、すっかり信じて、結婚式と違って食べる時間もばらけて良いなくらいに思っていたが、トンでもない話で、その後2曲程歌が終わったらスピーチの連続。お医者さんや、この基金に協力している元フィギアスケートのカナダ代表の女性など、それぞれに長いスピーチで、食事を供する契約時間が終わる30分前まで、この状態が続いた。主旨が主旨だから、お客様が酔っ払ってしまわないうちに話をしたいと言う事なのだろう。パーティ自体は日付が変わるまで続くからそれで良しとしたものなのか。しかし最後の30分・・歌が復活したので1〜2曲ゆったり聴いている人が多かったので最後の20分はずらっとお客様が並んで、尚且つ相棒の料理人であるシャノン(彼女は10年以上経験があるのでその分楽だったが)にデザート等の手配の為調理場に下がってもらったので1人で2種類の肉を切りまくった。そのままの勢いで或る程度の肉を切ってパンに挟んで残りのアミューズ ブーシュと並べて、1つのコーナーに置き、我々がいなくなっても暫く食べ物が残っている状態にして引き上げた。
まあ誰も文句を言う人も無く皆喜んでいる様だったから成功と言って良いかと思うが。
戦争博物館は3度目だったが過去2回は同博物館のレストランである“ザ・メス”だったので、この部屋も初めてだった。シアターと言う名前の通り、テーブルの代わりに椅子を配して映画の上映も出来るようだ。今回の様に舞台を用意して生演奏も可能。文明博物館はかつて何時でも行ける会員になっていたほど頻繁に通ったが、戦争博物館の方は馴染みが無いのだ。因みに来る週の木曜日には同博物館のル・ブレトン ギャラリーで大きな宴会が入っている。このギャラリーなど立食で1200人、着席でも600人の収容力がある。圧倒的に多いのは土曜の1000人の宴会にも使われた文明博物館のグランド・ホール、ここは立食1000人、着席600人のキャパシティながら隣接するリヴァービュー サロンと繋げて使う事で立食1500人、着席800人まで対応できるし、巨大なトーテムポールのモニュメントも人気だ。次に人気があるのは調理場から一番近いサロン・ド・ヴォヮイヤジュールだが、未だ私が未体験の場所が両博物館共幾つもある。



143.ツーリストには残念な・・・

(9月30日更新)

何時の間にか紅葉も始まっているが、天気が悪い日が多い。雨で即散ってしまった葉も少なくないだろう。そしてストライキは相変わらず続いている。ストライキに難癖をつけるつもりは毛頭無い。
このストライキの主旨は一言で言えば雇用条件に関する闘争。言い換えれば、この不景気の中容易に解雇されてはたまらないから、そこをしっかり契約で固めたいと言う所だろう。
もっとも、我々の職業にはあまり関係の無い話であるとは言える。以前私たち(前のホテルもそうだが、現在の職場もその出身者は多い)が居たカフェ・アンリーブルジェの様に、いきなり「今週中に閉店する」(くどいようだが私などこの時休暇中で帰って来るまで知らなかった程だ)と言われたら、グランメゾンだけに調理場だけでも大勢いたのだから普通の会社ならパニック状態になっていた筈。しかし実際には皆「まいったなあ」とか言いつつも、数ヵ月後には全員新しい仕事に就いていた。こんなのは極端な例だが、要するに何の保障も無いのが前提の様な世界だ。料理人に限らず、他の技術職や一見華やかな芸能界など保障の無い職業は少なくない。大きなシティホテルや、今の様な大企業の傘下で仕事をしていても概ねそれは変わらない。そういう所では安定を得ようと思えば不可能ではないかもしれないが、安定を求めてサラリーマン化するのは私個人としては賛成できない。
しかし、やはり職業によっては(特に不況下では)容易な事で転職出来るものでは無いだろうから、とにかく何とか早く折り合いをつけて欲しいと願うばかりだ。
せっかくの紅葉の季節。天気も優れず、目玉の様な博物館も係員の代わりに警備員が立っていたり、土産物の店等も全て閉まっているのでは興ざめだろう。コンパスグループが担当するレストランやカフェテリアが開いているのは唯一の救いかも知れない。
夜の博物館は別の顔と理解されたのか、ありがたい事にその後キャンセルはそれ程出ていない。前回書いたル・ブレトン・ギャラリーの件もそのままだ。ただし300人程度のグループだ。
否300人と言えば十分大きなグループなのだが、忙しかった週末の後では大した事無く感じるから、人間の感覚は面白い。つまり、一件しか入っていない所に先週の土曜の様に分散されていたメンバーが全員で取り組むとなれば、仕込みも意外なほど短い時間で整う理屈だ。
今月はなるべく更新しようと努力したが、実際には全部で6回。それでも先月までに比べれば倍だし、またなるべく写真をリンクさせて臨場感を出すように務めてみた。来月もこの線を続けたい。