65.多忙の2月。
(2月4日更新)
結局パディは入院して、シーズン前最多忙の2月に突入してしまった。今日は久しぶりに気温が上昇し、天気も良かった。昨日も割りと天気が良くてフジェールでは予約無しのお客様が殺到したが、その前日までは大雪の日が続いた。ネットのニュースを見ると東京でも雪の為に交通が麻痺したそうだが、積雪は10センチ以下だったそうだ。つくづく東京のインフラは雪に弱い。こちらは積雪70センチでも車を吹っ飛ばしてるしている人もいるくらいだが、基本的に皆スタッドレスのウインタータイヤをつけている事が前提だから出来る話だ。そうは言ってもオールシーズンの新しいタイヤならウインタータイヤとほぼ同様の効果があるし、ゆっくり走れば何とかなったりするので、つけていない人も結構いる。かく言う私もフジェールに専属で働いていた頃は職住接近であった為1年を通してオールシーズンのタイヤを使っていた。しかし去年の暮れにケベック州議会でウインタータイヤ装着の義務付けが可決された。無論適用は今度の冬からだが11月15日から4月15日までの装着が義務で罰金は200〜300ドル(2〜3万円)だそうだ。11月から4月・・・つまりはきっちり半年間がケベック州の冬と言う事でもある。
今日は私の定休日の月曜日だが当たり前のように出勤となった。それと言うのもロメインもツェアもオーナー、メートル・ドテル等と共にホテルの業界紙か何かが主催する会合(詳しく聞く気にもなれなかったが)でモントリオールまで行ってしまったからだ。本来調理場からはパディとロメインの2人(どっちに転んでも朝が早く、翌日午後出勤などする訳にはいかない私はいつものように留守番なのだが)が行く予定だったが、パディが駄目なので急遽ツェアが代わりに行く事となったのだ。暇ならシェフ・ド・アントルメティェのサミュエルがソーシェもできるし、休めない事もなかったが、さすが2月は忙しく月曜日だと言うのに既に2つ団体が入っていた。特に1つはRCMP(連邦警察、カナダ版のFBI)の人達で、いつも急いで食事をするので、待たせないように配慮する必要があった(まったく、連邦警察やら国境警備隊やら国家の諜報機関やら、場所柄とは言え、おどろおどろしい方々も企業会員に名を連ねているようだ。やっぱりこれも全て税金から?)。一方で今週もずっと忙しいとなれば食材の手配も確認しておかないと明日からあれが無い、これが無いと騒ぎになることも必至。とりあえず数時間でも出勤しておいた方がむしろ楽だとも言える。因みにスケジュールもツェアに先週末作っておいてもらったが、全然今週の忙しさに対応できる配置では無く、これも作り直す必要があったので、この点でも良かった。このスケジュール表とタイムカードを照らし合わせて、皆の(管理職以外の)給料が決まるので、ちょこっと書き直せば良いと言う訳では無い。大して大きくないとは言え、組織と言うのは全く面倒な事が多い。それにしても「シーズン前でも2月だけは忙しいから誰も休暇は取れないぞ」と言っていたパディ本人が倒れてしまったのだから前途多難だ。
66.冬長し。
(2月7日更新)
今日も相変わらず大雪だった。朝から白い小さな玉が車のフロント硝子に向かって散弾銃の弾丸の様に飛んできて視界は最悪。そんな中猛スピードで走る狂ったドライバーが多いのも又相変わらず。事故続出もいつも通り・・・と言うのも恐ろしいが、この所大雪の度に私の通勤路の途中で事故がある。全く人の事故を見ても自分には無関係、起こり得ないと根拠の無い自信を持つ人が多いのに驚かされる。しかも若者ならともかく、いい年をした人がこんな事をやっているケースが多い。カナダ人の国民性はのんびり、と言うか割とおっとりしていると言う印象があり、実際そういう人も多いが、車の運転を見ている限り、どうもそうは言い切れない。駐車場でバックで入れるために斜め前に車を出すと、その駐車位置に前進でさっさと入ってしらばっくれて駐車する人(後で気付いてどかしてくれる人も稀にはいるが)、ハイウエイの入り口で前を走っている車より、早く本線に入る人、一車線で目的地がほんの150メートル先なのに制限速度一杯で走っている前の車を追い抜かずにはいられない人、クラクションを鳴らせば周りの車は皆自分の思うとおりに動くとでも思っているような人、毎日の様にこんな人達を見かける。
ガス オーブンの調子が悪いのでオタワの修理業者に電話したら、ハイウエイが閉鎖されていて、今日は来れないと言う。前回東京の雪に対するインフラの弱さを書いたが、オタワのハイウエイが閉鎖される程の雪は大概だ。何しろ世界の首都の中で2番目に寒い(1番はモンゴルのウランバートル、3番はロシアのモスクワ)と言う豪雪地帯なのだから。
しかしお客様の方のキャンセルはまるで無かった。まあ団体のうち、一組は泊まっていたから当然だが、その他は殆どオタワ方面から来た筈。勿論ハイウエイを使わなくても来れる事は来れる。しかし有り難い事ではある。
今日は調理場の人手が特に足りなかったので、結局今週も木曜日の経営会議出席は勘弁してもらったが、会議が終わってからメートル・ドテルのジュリが私の所に来て、「明日から又このプラスチック加工された昼のメニューに戻す事になったから。これはオーナーの決定だから至急足りないものは全て揃えといてね」などと言う。見ると何と去年の夏のメニューではないか。「こんな夏の、殆どが冷製の献立を今の時季にできる訳ないじゃないですか。しかも明日までに仕込みが間に合う筈も無い。第一食材だって冬になって値段が倍になったようなのが多々このメニューに入っている。有り得ない」と言うと、「これはオーナーの決定です。従ってもらわないと」と来る。オーナーの名前を出す事。そして、相手が何を言おうと耳を貸さず、同じ事を何回も繰り返す事、これは彼女のいつものパターンだ。ほんの2週間前にも突然やって来て「今週の水、木、金曜日はブッフェをやってもらいます。これはオーナーの承認を得ています」と言うので「いや、元々水、木は50人以上入っていてブッフェ以外の選択肢は無いですよ。既に温製、冷製、デザート全て手配積みです」「とにかく、水、木、金とブッフェをやってもらいます」「だから、水、木は既にやる事になっていると言っています。ただ金曜日は今週ガラッと暇で・・」「水、木、金、全部ブッフェよ!オーナーの決定です」「良いですか、よく聞いてくださいよ。金曜日はたった6人しか予約入っていないんですよ。6人の為にブッフェやっていたらこのホテルはつぶれますよ。本当にそれをオーナーの声だと貴方が責任を持って言えるんですね?」と言うと、急に興奮が冷めて「と、とにかく金曜は別として、水、木はブッフェをやってもらわないと」と言うのでこっちも根気良く「水曜、木曜はブッフェをやりますよ」と繰り返して彼女が去っていくと傍で聞いていた私の部下が目を丸くして、「Naki、何度同じ事繰り返しているんですか?あの人まるで聞いていないみたいで・・・」とあきれていたので「彼女は興奮すると相手の言う事は耳に入らないんだ。よくあることだから気にしないで」と、その時はフォローしておいたが、こんな事がよくある事であっていい筈は無い。しかしそっちの一件は結論として水、木曜のみブッフェをやると言う予定通りの決定なのだから別に文句も言わなかった。
しかし、今回の場合はまるでケースが異なる。今更夏のメニューなんか復活させたら「ル・ムーランのシェフはおかしくなったんじゃないか」と世間の笑いものですらある。「いくらなんでもオーナーがそんな馬鹿げた決定する訳無いでしょう」と言っても「いいえ、間違いなくオーナーの決定です。とにかく現行のメニューは全て回収しておきましたから、早速このメニューに戻すべく・・・」と繰り返すばかりなので「もういい。分かった。貴方と話しても埒が明かない。私がオーナーと直接話してくる」と言って、ただでも忙しい現場を部下に任せ、オーナーに会いに行った。「本当にこのメニューに戻せとオーナーがおっしゃったのですか?」と聞くと、自分では普通に話していたつもりだが私も興奮していたのだろう。「い、いや私はそんな事は言ってないよ。Naki、君がこんなに興奮したのは初めて見たな。私は現行のメニューが紙に印刷された物だから、プラスチック加工されたメニューが必要だと言ったまでで、そもそもそれは君から出た提案だとパメーラ(人事部長)から聞いたぞ」「その通りです。そのために試行錯誤して新しいメニューを作り、もうこれで良いだろうから決定してプラスチック加工しようと提案しました」「そうだろう。それをフランス語版、英語版とに分けて新たにプラスチック加工する手配を進めて欲しいと言うことさ」との事である。こんな事だろうと思った。大体ジュリはいつも他の人の話を半分しか聞いていないのだ。今回も「プラスチック加工」と言うキーワードだけ聞いて「前に使っていたメニュー」に結び付けてしまった訳だ。
こんな風に個人名をあげて批判のような事をエッセイに書くのもどうかと思うが、私としてもどこかで発散させておかないとまずいのだ。パディが病気になった大本の原因は明らかにストレスだと思う。まったく彼が不在で皺寄せがこっちに来て見るとつくづく「これじゃ身体壊すわ」と思わざるを得ない。せめて、この場を借りて言いたい事を言っておかないと次に病院にいくのは私・・・なんて事になりかねない。
67.今週も経営会議の日。
(2月14日更新)
セント・バレンタインデー・・・カナダでのバレンタインデーは日本のクリスマスイブに似てカップルばかりで高級レストランは何処も予約で一杯である。この日ばかりは料理より寧ろスゥイーツ、デザートの方が主役、言い換えればパティシェ殺しの日で、私もパティシェをしていた頃は一年で一番忙しい日の一つだった。
2月も既に半ばと言う訳だが東部カナダの冬は未だ未だ続く。マイナス20〜30度、雪も相変わらず勢いを緩めない。
前回の更新から丁度1週間、またも経営会議の日だ。先週は調理場から誰も出席しなかった為にかえって往生した事は既に述べた通り。今日は人手もあったので出席した。このエッセイだから率直に書くと、本当はこういうのは好きではない。まあ経営会議やら棚卸しの計算やらが好きだったらこの仕事を選んでなかっただろうが。普通のレストランならば会議は全て自分達に関係ある事だからまだしも興味が十分あるが、ホテルともなれば部屋に置くアメニティ グッズの話とか、スパの話だとかインターネット経由のホテル予約状況の話とか、会議室の机の具合だとか話さなければならない話題は尽きない。正直我々には直接関係無い事も多いのだ。しかし料理が売り物のオーベルジュであるい以上、当然我々の仕事そのものの話も当然多いので、やはり出ておかないと先週の様な事になる。不在の間に勝手に色々決められては困るのだ。パディは未だ入院しているが、大分回復してすっかり退屈しているらしい。どうやっても実行できなかった禁煙が否応無しに出来たのが大収穫で、本人は喜んでいると言う。面会も出来るようになったので、今日は人事部長と私の部下が代表で本やら何やら退屈凌ぎの差し入れを持ってお見舞いに行く事になった。私も先週電話で話す機会があったが、至って元気な声だったし、後数週間で取りあえずは帰ってこれるかもしれない。3月には私も休暇を取って日本に帰国する事になっており既に1月の初めに航空券も取ってあるのでそれまでに帰ってきて事務の仕事をやってくれるぐらいになってくれると良いのだが。私の休暇はかろうじて2週間だが、その後ロメインの3週間の休暇やら、他の子達の休暇が続くのでどっちに転んでも時期はずらせない。私もロメインも普段全然余分な休みを取っていない関係でシーズン前に休暇を取らないと法律的にもまずいらしい。しかし休暇前後はより多忙になる。去年、おととしは気楽な気持ちで休んで、戻ってみたらサプライズが待っていたと言う話は何度も書いたし、その前の年など休暇そのものを取らなかったが、今回はもう予め窮屈な休みになりそうだ。せめて日本ではのんびりしたいが。
68.休暇への道、今昔物語。
(2月21日更新)
何となく木曜毎に更新している様な感じだが、又あっという間の1週間だ。今日は団体が3つ入っていてブッフェだったので、経営会議は1時間で切上げさせて貰い、その間にまとめて飲食部の懸案だけ先に話し合ってもらおうと画策していたが、昨日ロメインが「何なら俺が早起きして代理で出ましょうか」と言ってくれたので、渡りに船とばかり「えっ?そう。じゃあ宜しく頼むよ」と間髪いれずに頼んだ。こっちは「しめた!」の表情だが、向こうはもろに「しまった!」の顔になった。しかし自分で言い出したのだから彼も引っ込みはつかない。結局3時間近く大して身のない会議が続いたようだ(ロメイン、有難う)。
何しろ2月は忙しいので時間がおしい。休暇までの間に冷凍保存出来るものは作って冷凍しておきたい。3月9日から2週間の休みだが、それまでは休みゼロだ。否月曜日は相変わらず暇で十分休めるのだが、私が2週間空けると言う事で、ロメインが「やっぱりNakiがいないとなると俺は2週間週7日出勤と言う事になりますか・・・」「うん。パディは帰ってきても調理場に入るには3ヶ月はかかるしな(そもそも筋肉を使っていないのでリハビリから始めなければならないし)。逆に君の休暇の時は私が毎日出る事になるだろう。ま、今のうちに休んでおけよ」と言う訳で私は休暇まで後3週間足らずの間だが休み無しでカバーする事になったのだ。ロメインは正月のスタッフパーティの抽選で1等賞のキューバ旅行が当たり、フランスからお母さんを呼んで3週間一緒に旅すると言うので5月から6月にかけてのシーズンの初めごろながら優先してあげたいと思う。パディが「若い奴を育てよう」と言うので普段夜はロメインやサミュエルに任せるようにしているが、ロメインの休暇、それに先立つサミュエルの休暇には久しぶりに私がソーシェとして夜も立つ事にもなろう。前回書いた様に普段暇な時に例えば3日間とか、4日間とかまとめて休んでいれば問題ないが、それどころか普通の定休日もキャンセルしている状態なのだから私もロメインもここで無理にでも休暇を取らないと法的にもまずいと言う所まで来ているのだ。今回ほど休み前、休み後の予定が詰まっているのは近年稀に見るという感じだが、昔はいつもこんなものだった。
「よくそんなに休まないでやれますね」とか皆に言われるが、今は週7日目一杯働いてもせいぜい60〜70時間の間、ドイツに居た頃は週100時間以上当たり前のように働いていた。基本は朝8時から夜中の1〜2時まで週6日。しかし私が住んでいたデュッセルドルフはメッセ(幕張メッセなど日本語にもなっているが見本市の事)で知られる町で大きなメッセが開催されると人口の10倍まで人が滞在し、朝5〜6時に始めて全員週7日出勤という状態だった。朝の6時に出勤して夜の2時に終わると20時間労働。その間昼食に15分、夕食に15分程度が座って休める限界だった。こんな時期は週の労働時間は120時間にも上った。今の私のシフトで60〜70時間と聞いて「考えられない労働時間だ」とあきれるカナダ人はその倍の時間をどう思うかと言う所だが、こうなると数字が大きすぎてかえってピンと来ないようだ。
人間と言うのは面白い物で、普段週40時間しか働いていなければ週60時間と聞いても驚く程の残業時間と感じるが、逆に120時間を経験した者なら「割と楽だな」と感じたりする訳だ。しかし私ももう10数年以上あんな無茶なシフトはしていないし、3月の休暇には飛行機の中でよく眠れそうだ。
69.査定。
(2月26日更新)
相変わらずよく雪が降る。天気予報によると、まだこの先もマイナス26度、体感温度マイナス32度なんて日が目白押しだし、雪もがんがん降り続きそうだ。ある新聞記事で文明博物館のレストランが滅茶苦茶叩かれていた。簡単に言えば「あのジョルジュ・ローリエがプロジュースしているとは思えない料理とサービス」と言った内容だ。かなり料理記者の主観で書かれている。記者はジョルジュがカフェ・アンリー・ブルジェ以前にオーナーシェフをしていた伝説の名店ローリエ・シュール・モンカレムの常連だったと言うが、予算の限られている博物館のレストランとローリエ・シュール・モンカレムやカフェ・アンリー・ブルジェのような高級店を同列に見ていること自体無理がある。パリのルーブル美術館辺りのレストランなら十分な予算も与えられていようが。日本でもついに去年ミシュラン・ガイド東京版が発売されたが、一般のお客様はガイドや記事に大きく影響されるのだから、もう少し客観的な記事を書いて欲しいものだ。ジョルジュにはパディの病状の報告を兼ねてメールを出しておいたが。
先日またリトル・インの重田まり子さんからメールを貰い、人手不足で困っていると書いていたが、こちらもパディが帰ってこないので、未だ人手不足、新人探しを続けている。週末のアルバイトは雇い入れたが、フルタイムに強力な人材が必要だ。候補は履歴書が結構溜まっているのだが、条件が折り合わない。何しろこの御時勢給料も安い。新しく入ってくる人ばかりでなく今いるスタッフだって給料には不満も多く、今日も人事部長に呼ばれ私の部下のドゥェインが給料を上げて欲しいといってきているので査定を出してみてくれと書類を渡された。30項目も有り、まるで通信簿みたいだ。ドゥェインは私より若いが、早くに結婚して高校生の男の子と女の子が一人づついる。生活がかかっているのだから少しでも給料を上げてあげたいと思うが、査定は正確をきさないと他のスタッフにもフェアではないし、何れにせよ職人仕事だから結果でごまかしが効かない。たとえ50円時給が上がっただけでも年収で10万円以上の差にはなるのだから、とにかく何とかしてあげたいところだ。最終的には人事部長と本人と私の三者面談になるだろう。街場のレストランならオーナーの胸三寸で簡単に決まる事だろうが、本当に組織は面倒くさい事が多い。実際彼は年齢と経験から考えると料理に対する知識も少ないが非常にまじめな仕事ぶりだし、まだまだ伸びると思う。一番若いガルド・マンジェの子はドゥェインの息子と一つか二つしか変わらないティーンエイジャーだ。この子、マーク・アンドレはお母さんがフロントの主任であるところから15歳から皿洗いで入って2年でガルド・マンジェに昇格したのが1年ほど前。当然才能はあるし、仕事の覚えは早いが、最近遅刻率が100パーセント!特に今日は結局2時間半遅れと言うひどさ。今朝は彼はパティスリーでミーザンプラス(仕込み)をするよう手配していたので、私も多忙で最初気付かず、1時間半も経ってから姿を見ないので「おい、マーク・アンドレはどうした?」と他の子に聞くと、「未だ来てないみたいです」との答え。何時ごろ出たのか聞こうと自宅に電話して「お宅のマーク・アンドレですが・・」と聞きかけたら「あ、はい、今替わります」(って、未だ家にいるのかよ・・・)と思ってたら「おーい、マーク・アンドレ、電話だよ、起きなさい」との呼び声が電話から漏れてくる。(えっ?起きなさい?)かなり待たされて本人が出たので「マーク・アンドレ、一体今何やってるんだ!」と聞くと、殆ど寝ている声で「あー、今ですか、今ズボン穿いているところですけど・・・」「・・・それで今日は何時から仕事を始める事になってるんだ?」「えーと、もう始めているはずですよね」「・・・・」完全に絶句。もはや怒る気もなくなってしまい、とにかくすぐ来るように言った。いくら才能があっても私の修行時代、こんな事やっている人間はたちまち皿洗いに逆戻りさせられていただろう。もっとも前にも書いたが、何処の国の調理場でも、何時の時代でも、結局個人差で、誰にも長所、短所があるという事だ。しかし、良い意味でも悪い意味でも人の個性を殺さないようにするのはカナダ流なのかもしれない。